クラシカルな雰囲気漂うリジッド風フレーム。ソフテイルの代名詞とも言える美しいラインは誰もが憧れるスタイリングを具現化したものだ。ソフテイルに秘められた醍醐味に迫ってみよう。
ソフテイルファミリーの特徴と言えば、「ソフテイルフレーム」に他なりません。1984年、エボリューションエンジンと同時に発表された独自のサスペンション構造を持つフレームで、リアのスイングアームをデルタ(三角形)形状にしており、リアショックをミッション下に横向きで配置しています。このスタイルは、ハーレー黎明期から受け継がれているリジッドフレームを模したもので、1950年代まで主流だったフレーム形状なのです。その頃にはリアショックなどは搭載されておらず、バイクが受ける衝撃がそのままライダーに伝わることから「ハードテイル」と呼ばれていました。スタイリングを損なわずにリアショックを搭載するというアイディアから、ハードテイルと対をなす「ソフトテイル」という名称になったのです。
数あるバイクの中からハーレーダビッドソンというメーカーをチョイスするオーナーさんは、そのほとんどが「カッコよさ」で選ばれていると思います。中でもソフテイルは特に見た目を重視したスタイリングであることから、多くの方々の支持を集めています。なぜか、それはこのリジッド風フレームの形状が、古きよき時代のハーレーをほうふつさせるからなのです。例えば FLSTC ヘリテイジ ソフテイル クラシック ですが、これはソフテイルフレームをベースに、往年のハーレーの姿を蘇らせた典型的なモデルと言えます。また2011年モデルまでラインナップされていた FLSTSB クロスボーンズ にのみ装着されているスプリンガーフォークも、歴代のスプリンガーモデルを見るとすべてソフテイルファミリーなのです。
そして「FXシリーズ」と「FLシリーズ」の違いも、ソフテイルを語る上では欠かせない要素。それぞれの特徴は下記の通りです。
FLSTC ヘリテイジ ソフテイル クラシック や FLSTSB クロスボーンズ といったFL系を検討される方は、ツーリングファミリーのモデルと比較される傾向がありまして、主に取り回しや車両の重さなどを考慮されています。また2007年モデル以降のFXシリーズは、リアタイヤがワイドタイヤとなっています。タイヤ幅が小さいほど取り回しやすいですから、ライディングという面にも違いが表れていますね。どんなハーレーライフを楽しみたいと思っているのか、その使用用途によって選ぶのがベストでしょう。これという1台を選ばれる上での判断基準にしていただければ、と思います。
ソフテイル最大の魅力は、カスタムのベース車両に最も適していることでしょう。実際、ソフテイルのモデルを買い求められる方は、他のモデル購入者よりもカスタム意欲が高いです。そのポイントは、先ほどお話ししました「ソフテイルフレーム」に他なりません。シンプルな美しさを持つこの形状は、古きよきハーレーの時代を思わせる以外に、カスタムする上で最も取っ掛かりやすい姿をしているのです。ハーレーは今も昔も「カスタム」という文化を育んできました。それゆえ、長く愛され続けているカスタムされた旧車のベースはそのほとんどがリジッドフレームで、ニュースクールやボバー、チョッパーなどのカスタムスタイルとリジッドの形状は、切り離せないものとなっています。純正パーツもソフテイルは豊富なので、カスタマイズを楽しみたい人、自分だけの特別な1台を望む人にはうってつけのファミリーです。ただし、いろんなスタイルのカスタムが可能ゆえ、方向性を定めないといろんなものが混在した妙な1台になってしまいます。もしご自身の中に「これ」というカスタムのスタイルがあるのでしたら、ディーラーに希望のスタイルを相談した上で、その姿に近づけられるモデルを選び、予算を設定してカスタムしていくのがいいでしょう。
また近年は「ファクトリーカスタム」と呼ばれるモデルがありますが、ソフテイルにも多く投入されています。FXSB ブレイクアウト や FLS ソフテイル スリム がそれですね。少し歴史を遡れば、ハーレー初のブラックアウトモデルとしてデビューした FXSTB ナイトトレイン や、半月型のリアフェンダーなど近代的なデザインで注目を集めた FXSTD ソフテイル デュース も、当時ファクトリーカスタムと呼ばれたモデルでした。
この点からもカスタム向きのスタイリングであることが分かりますが、メーカーがもっともバランスのよい状態でまとめているので、我々ビルダーとしては手が付け難いんですよね(笑)。逆にそこにどう味付けするか、我々のセンスが問われています。ただこれはファクトリーカスタムに限らず、幅のあるカスタムが可能なソフテイル全般に言えるのですが、他のファミリーと違ってちょっとしたペイントやパーツの交換でがらっと姿を変えられるモデルなだけに、カスタムセンスが必要になってきます。これこそがソフテイルを所有する醍醐味だと思いますので、カスタムを楽しみたい人はソフテイルをベースに、いろいろと想像を膨らませてみてください。
ハーレーダビッドソンシティ 中野店の店長。メカニックとして若い頃からディーラーで腕を磨き、そこからディーラー店長に駆け上がった。HDJ主催のカスタムコンテストでも毎年賞を獲得しており、「彼のセンスは抜きん出ている」と他ディーラーから認められるほどの存在でもある。たまに筋トレのし過ぎで疲れ気味のときも。