CVO(カスタム・ビークル・オペレーション)とは、ハーレー自らがカスタマイズした限定仕様の最高峰モデルのこと。試乗前のプレゼンテーションでプロダクトデザイン担当のブラッド・リチャーズ氏は「1969年にデザイン革命を起こしたバッドウイングカウルを付けたグランドアメリカンツーリングを初めて世に出して以来、数十年にわたり伝統と進化のバランスを見極めつつマイナーチェンジを繰り返してきた。新型CVOでは水平基調のデザインが特徴で、ストリートグライドに関してはLEDヘッドライトには特徴的なイーグルデザインを取り入れた」とのこと。見た目のフォルムだけでなくエアロダイナミクスも大きく進化したという。
そもそも、ストリートグライドは“街乗りから楽しめるツアラー”という位置付けだとか。だから特徴的なヤッコカウル(バッドウイングカウルの日本での俗称)をハンドルマウントとしトップケースも持たない軽装備になっている。これをベースに専用のカラーと装備が与えられた限定版がCVOと思って差し支えないだろう。前回紹介したCVOロードグライドが高速道路を使ったロングツーリングを想定しているのと比べると、より近距離で手軽に乗れるツアラーということだ。
創業者の孫に当たるビル・ダビッドソン氏も「新型CVOにここ何日か実際に乗ってきたが、新たな感動をもたらしてくれた。まさにホームランだと思う」と大絶賛。ハーレー本社のヨッヘン・ツァイツCEOも「新型CVOシリーズはまったく新しいツーリング体験をもたらしてくれる。新型の開発はゼロから出発した。ハーレーの伝統と歴史を受け継ぎつつも70%は再構築されている。ハーレーはかつて“ツーリング”を発明したブランドであり、新型CVOは我々が未来に向けて真剣に取り組んでいることの証でもある」と自信たっぷりに語っていた。
CVOストリートグライドも完全新設計となった。空力性能を高めた新型フェアリングやティアドロップ型燃料タンクから滑らかな曲線を描くサイドバッグと新デザインのホイールなど、現代的でスマートなシルエットはCVOロードグライドと同様だ。
エンジンも同じくハーレー史上最大排気量 1977cc の空冷 V ツイン、「ミルウォーキーエイトVVT 121」で可変バルブタイミング(VVT)に新設計の吸排気系および水冷式シリンダーヘッドにより、歴代最強の最高出力115ps/4500rpm、最大トルク189Nm/3000rpmを実現。燃費も向上させた。足まわりも一新され、サスペンションはSHOWA製でフロントは倒立タイプに、リアショックもトラベル量を増やして路面追従性を高めつつ、ブレーキもブレンボ製ラジアルマウントキャリパーを採用するなど盤石の作りだ。
電子制御も一段と進化した。3種類のライドモードと安全強化パッケージを標準搭載し、新しいインフォテインメントを導入。ナビや4スピーカーを組み込んだオーディオシステムもタッチスクリーン対応の12.3 インチ TFT ディスプレイを通じて操作可能だ。2か所のUSBポートやヒートグリップも標準装備とするなど、新時代のCVOに相応しい充実したパッケージとなっている。詳しい仕様は「CVOロードグライド」編をチェックしてみてほしい。
エンジンや車体を共有する新型CVOシリーズだが、では「ストリートグライド」と「ロードグライド」の違いはというと端的にはまずカウルのデザイン。前者がハーレー伝統のバッドウイング型であるのに対し、後者はシャークノーズ型を採用しているのが大きな違い。あとはライポジもだいぶ違う。シート高はストリートグライドが少しだけ低い715mm(ロードグライドは720mm)で、その違いは体感できるほどではないが、一方でハンドル位置は大きく異なる。ロードグライドに比べると拳3個分ぐらいは低めで、腕を伸ばした自然な位置にあるため最大公約数のライダーには馴染みやすいはずだ。
車重は従来型より31ポンド(約14g)軽い380kgとなり、こちらも393kgのCVOロードグライドと比べると取り回しなどは軽く感じる。巨大であることに変わりはないが、割と普通に乗れそうなのだ。
2000ccに迫る新型Vツインエンジンの鼓動感と炸裂するサウンドは雷鳴のようだが、回転そのものは極めて滑らか。従来型と比べても分厚い低中速トルクはさらに図太く、加えてVVTによってパワーバンドが広がり高回転がスムーズになった。CVOロードグライド同様、重心がより低くなり一時停止でもバイクを支えやすくなり「立ちゴケ」リスクも低減した感じ。ハンドリングはどの速度域やコーナー曲率においてもクセがなく素直で、低速でのハンドルの切れ込みや倒し込みでの立ちの強さも感じない。むしろスポーティと言ってもいい。
新型はゼロから設計したという話だが、ことハンドリングに関してもかなり作り込んできた印象。その名のとおり市街地(ストリート)でもそつなく乗り回せる感じだ。足まわりも極めて現代的だ。ブレンボ製ブレーキはマイルドタッチだがコントロールしやすく必要十分に強力。SHOWA製の倒立フォークもストローク感のある快適な乗り心地でありながら、ダンパーもしっかり効いてコーナリングでも踏ん張ってくれる。CVOロードグライドに比べるとコンパクトなカウルまわりと自然なハンドル位置。そして僅かに軽量なことで、ワインディングでは走りもより軽快さが感じられた。そして高級サルーンのような大型ワイドのフルカラーTFTディスプレイの美しい画面や、前後4個の高性能スピーカーから流れるクリアなサウンドを体験するだけで贅沢な気分になれる。また、これらを使いこなすためのスイッチ類やハンドルバーエンドを押すだけで3段階に切り替わるグリップヒーターもシンプルで操作しやすかった。
CVOロードグライドと並ぶと迫力には劣るが、逆に言えば視覚的に軽快でハーレーらしい伝統的なフォルムにも親近感が湧く。もちろん、高速クルーズでも遜色ないほどに快適だった。その意味で、双子の兄弟ではあってもちゃんとキャラクター分けされているのだ。
空冷OHV45度Vツインの伝統を受け継ぎつつ完全新設計された「ミルウォーキーエイトVVT 121」エンジン。排気量拡大と可変バルブタイミング(VVT)、ヘッドまわりの一部に水冷システムを採用することで歴代最強のハイパフォーマンスを実現。
ストリートグライドを象徴するバッドウイング(コウモリが羽を広げた形)フェアリングは形状もよりシャープに。DRL一体型のウインカーを埋め込んだフルLEDシグニチャーライトを採用するなど洗練された。
フューエルタンクは容量22.7リットル。高速道路ではVVTによる低燃費とハイギアードな6速、2000rpmで十分な巡行スピードが得られる高トルクによって満タン500kmを超える航続距離も可能だ。
シートは従来モデルに比べるとソリッドな感触ではあるが、人間工学に基づく形状やパッド素材の改良により長距離ツーリングでの快適性も向上している。シート高は715mmで足着きの良さも申し分ない。
標準装備の樹脂製サドルバッグはボディと一体化したデザインになった。張り出しを抑えたスリムな形状でありながら容量も拡大。レバーで簡単に開閉できるフラップ前側部分には150wスピーカー内臓の高性能オーディオをビルトイン。
アルミ鋳造リムとレース状スポークを組み合わせた豪華なホイールにダンロップ製タイヤ(フロント:130/60-19 R:180/55/18)を装着。ブレンボ製φ320mmダブルディスク&ラジアルモノブロック4Pキャリバー、SHOWA製φ47 mm倒立フォークなど足まわりはもろスポーツ仕様だ。
フロアボードタイプのフットレストとシーソー式シフトペダルもアルミパーツを多用したカスタムテイスト溢れる仕様に。新型CVOのラグジュアリー&スポーティを象徴する仕上がりだ。
バッドウイングカウル内側にはタッチスクリーン対応12.3 インチ TFT ディスプレイを中心に高性能スピーカーとバックミラーが埋め込まれた4輪的レイアウト。ロードグライドに比べるとハンドルバーはより低く手前にあり、街中などでは扱いやすいライポジと言える。
メーター下にはワンタッチで開閉するトレー状の収納ケースを内蔵。これが便利でスマートキーやスマホを収納。スマホとUSB-C接続してお気に入りのプレイリストをプレミアムなオーディオで楽しめる。
電子制御で出力特性やエンブレ、ABS やトラコンを最適化するライドモード(ロード、スポーツ、レイン、2つの カスタムモード)を搭載。TFTディスプレイは3 種類の表示レイアウトが可能でApple やAndroidデバイスとのWi-Fi 接続の他、ワイヤレスヘッドセット用 Bluetooth レシーバーも内蔵。
Apple やAndroidのスマホアプリと連動すれば大画面でのナビも可能。写真はマップを立ち上げた画面で、そのままでも自分の現在位置が分かるのでかなり便利。
左手側にはメニューボタンとインフォテインメント&ナビゲーション用のコントローラー、クルコンなどのスイッチを配置。グリップ末端部にはヒートグリップ用(3段階)のスイッチもある。
右手側にはメイン&イグニッション、ハザード、ライドモード切り替え、オーディオコントロール用などのスイッチを配置。ブレーキレバーはダイヤル調整機構付きで、形状も繊細にコントロールしやすいデザインになっている。
パネルディスカッションではツァイツCEO(右から2番目)と創業者ファミリーが登壇。ビル・ダビッドソン氏(左端)も「新型CVOは大当たりだ。“フォルムは機能に従う”という言葉のとおり、あきらかに新しい機能を形に表したものだ。より高いレベルでのエモーションを届けるのが目標だった」と語った。
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