今年で創業120周年を迎えたハーレーダビッドソン。その2023年モデル第一弾においてのトピックスモデルに名を連ねたのがナイトスターとナイトスター スペシャルだ。ここ数年のハーレーのニューモデル攻勢は以前にも増してアグレッシブであり、そのベースを支えているポイントの一つに、水冷V型エンジンユニット、レボリューションマックスの存在が大きなものとなっている。
レボリューションマックスは、ハーレーダビッドソン初のアドベンチャーモデルとして注目されたパンアメリカ1250/Sでの搭載にはじまり、その次はスポーツスターSに採用された。そして2022年のミッドイヤーモデルとして発表されたナイトスターでは排気量を引き下げられたレボリューションマックス950Tが使用されたのである。
それらのモデルすべてに言えるのは、ただエンジンを水冷化したのではなく、フレームから足まわりまで、全体的に新たな手法が用いられて開発されているということだ。
今回取り上げるナイトスターは昨年の登場後から高い人気を誇る一台だ。それが2023モデルではどのようなものとなっているのかを探っていきたい。
2022年ミッドイヤーモデルとして登場したナイトスターは多くのバイク乗りのみならず、従来のハーレーファンたちからも多大な注目を浴びるものとなった。その理由には、いくつかあると考えることができる。
まず一つ目は以前の空冷スポーツスターが撤廃され、水冷レボリューションマックス1250Tを搭載したスポーツスターSに端を発し、新たにスポーツファミリーとなったのだが、モダン過ぎたとも言われるスタイリング、異次元のパフォーマンスに気後れした人たちがいたこと。それを追って出たナイトスターは、いわゆる空冷時代のスポーツスターを上手くオマージュしつつ、新時代をしっかりと感じさせるデザインに共感を得ることができ、排気量を1000cc以下に抑えたことは、むしろスポーツライディングを楽しむ上では、触れやすいと思えたことなどが挙げられる。
先日発表された2023年モデルでは、そのナイトスターに上位モデルナイトスター スペシャルが加えられたのだから、ハーレーダビッドソンの力の入れ具合も伝わってくるというものだ。
さて、それではナイトスターのスタンダードモデルとナイトスター スペシャルの違いは何であり、どのようなすみ分けがなされているのだろうか。それぞれの装備内容から乗り味など、幅広く検証してみよう。
ナイトスターとナイトスター スペシャルの大きな違いは、後者には4インチ丸型TFTメーターが搭載されている点である。これはインフォテインメント機能も備えており、ヘッドセットやスマートフォンにダウンロードした専用アプリとも連動できるのだ。
後は外観上での違いで、ダミータンクサイドにあしらわれるエンブレムが異なるデザインとされており、ナイトスタースペシャルにはスピードカウルが備わったほか、タンデム仕様とされている。ホイール形状も異なる他(ナイトスター スペシャルには空気圧センサーが備わる)、良く見るとエンジンのヘッドカバーの黒い樹脂パーツの有無などがある。
ただこれらのスタイリングパーツのほとんどはスワップが可能なものなので、購入後に好みのスタイルへとカスタマイズすることができるだろう。やはり大きなポイントはインフォテインメント機能を備えたディスプレイなのだろう。そう思いながら試乗テストを始めてみた。
今回はナイトスターとナイトスター スペシャルの両モデルを続けざまに走らせることができたので、その違いも明瞭だったのだが、実は両車はライザー形状が異なり、ハンドル位置はナイトスターの方が低く設定されていた。走らせてみると、これが大きな肝となっていることが分かる。まずハンドルが前方低い位置にセットされているために、前傾気味のライディングポジションをとることになる。独特な姿勢となるのだが、ステップ位置がミッドコントロールなので、入力がしやすい上に、燃料タンクがシート下に置かれていることもあり、非常にコントローラブルなのである。
ややスピードを上げてコーナーを抜けるようなシーンでも、低速でUターンをするような時でも、配下のナイトスターは従順に弧を描いてくれるのだ。
エンジンのキャラクターも良い。3000回転程使ってあげれば気持ちよくクルーズでき、そこから高回転域まで吸い込まれるような加速力も備えている。この懐の深さというのは、空冷エンジンとはまた違った魅力となっているのだ。
フロント19インチ、リア16インチのタイヤサイズは、倒し込み初期こそ少々手応えが感じられるものの、いたってナチュラルなコーナーリングを楽しむことができる。これも空冷時代のスポーツスターを思い出させてくれる美点だ。 ライディングモードはスポーツ、ロード、レインの3パターンが用意されており、どれもエンジン特性の違いが明確に伝わってきた。ABSやトラクションコントロール、ドラッグトルクスリップコントロールなどの安全装備も充実しているので、少々手荒に扱ったとしても車両の方でリカバーしてくれ、スポーツライディングに集中できる。これこそがナイトスター本来の魅力となっていることが伝わってきた。
さて、それでは実際にナイトスターを手に入れようと思った際、2022年式の旧ナイトスター、2023年式新型ナイトスター、そしてナイトスター スペシャル、どれを選ぶか悩んでしまうことだろう。私自身も少し欲しくなり、購入シミュレーションをイメージしてみたのだが、まずナイトスターは2023年モデルとなって新車価格がかなり引き上げられている。具体的には昨年の新車最安値は195万4700円で、新型では226万3800円と約30万円も値上げがなされている。ナイトスター スペシャルは237万3800円だ。ちなみに余談だが、スポーツスターSは昨年194万8100円と、ナイトスターよりも低い新車価格設定が存在し、今期は249万4800円からとなっている。
価格のことばかり書くと下世話だと言われるかもしれないが、世の中の円安傾向を加味しても、昨年買っておけば良かったかな、と思わざるを得ない。
排気量975cc、水冷60度Vツインのレボリューションマックス975Tが搭載される。最高出力89馬力や最大トルク95Nmなどスペック的には従来モデルを踏襲するが、ヘッド部分の黒い樹脂パーツが撤廃された。
キャストホイールの形状をはじめ、足まわりも従来モデルから変更はない。フロントタイヤは100/90-19サイズで、大径かつ細身なので扱いやすい。フロントフォークはショーワ製φ41mmの正立式がセットされている。
スピードカウル(ビキニカウル)は撤廃され、オーソドックスな丸型ヘッドライトとなっている。縁にはLEDデイタイムライトが備わるなどモダンな面もあるが、デザイン的に落ち着いて見え、この顔つきを好むライダーも多そうだ。
シート高は705mmと抑えられており、足つき性は良好(ナイトスタースペシャルは715mm)。座面表皮のシボ加工がなくなったのは少々残念。ナイトスターはソロライド仕様が標準となる。
リアビューは空冷スポーツスターのソレをしっかりとイメージさせるものとなっている。シンプルな構成であるために、様々なカスタマイズも楽しむことができそうだ。
リアタイヤサイズは150/80B16。前後タイヤサイズのバランスが良く、リアタイヤを意識し寝かし込むと、自然とフロントが続いてリーンしてくれる。水平方向にセットされた極太サイレンサーも迫力がある。
従来モデルを踏襲した丸型メーターが採用されている。アナログスピードメーターを周囲に配置し、下部の液晶パネルに様々なインフォメーションを表示する。ライディングモードの『S』をシフトインジケーターの『5』と見間違えることがあった。
ステップ位置はミッドコントロールにセットされ、コーナーリングでのきっかけ入力がしやすい。ミッションは6速が用意され、ストリートからハイウェイクルーズまでストレスなくこなすことができる。
ハーレーダビッドソンのアイデンティティであるベルトドライブを採用。基本はメンテナンスフリーだが、張り具合などは時々チェックして見ても良いだろう。シート下部分に見えるキーシリンダーは、シートオープナーとなっている。
ダミータンクサイドはグラフィックパターンから一変し、オーソドックスなバー・アンド・シールドエンブレムとなった。この中にはエアクリーナーボックスや電装系部品が収められている。
リアサスペンションはプリロード調整機構付きのツインショックが採用されている。走行面に関してはバランスが良く、ノーマルショックでも十分にスポーツライドを楽しめる。
ハンドルバーはナイトスター スペシャルと比べてやや低めの位置にセットされているほか、バーエンドミラーを採用している。スイッチボックスはいたってシンプルではあるが、冬用グローブではウインカースイッチ操作がしずらい印象。
燃料タンクはシート下に備わっている。水冷ハーレーの先輩にあたるV-ROD系も同レイアウトだったことを思い出す。低重心かつマスの集中により、軽快で扱いやすいキャラクターとなっている。