1957年に初代モデルが登場したスポーツスター。ビッグツインモデルと比べて軽量コンパクトに纏められたスポーツスターは、今日まで老若男女問わず幅広い層に受け入れられてきた。そのスポーツスターがディスコンとなるという噂はここ何年も耳にしてきたが、2021年7月14日、Revolution Max(レボリューションマックス)1250Tエンジンを搭載した新生「Sportster S(スポーツスターS)」が世界初公開されたのだ。先だって登場したパンアメリカに続き、ハーレーダビッドソン新時代の看板モデルとなるスポーツスターS、一足早く試乗インプレッションをお届けしよう。
ハーレーダビッドソンが2018年に発表した今後の中期成長計画において、登場していたコンセプトモデル群の中に、ソレはいた。スポーツスターという名は使われていなかったにしても、姿かたちから察することはできていたはずなのだが、決定打が無かったのだ。その時から3年が経ち、長きにわたり採用されてきた空冷Vツインエンジンを辞め、水冷Vツインエンジンを搭載した新スポーツスターSがついに登場したのだ。
水冷となったエンジンはもとより、フレームや足まわりなど、すべてにおいて新設計とされたスポーツスターSに私は違和感すら覚えたことを白状しよう。従来のスポーツスターといえばカスタムベースとしても重宝されてきた上に、その扱いやすさから女性ライダーのファンも多い。2011年にデビューしたフォーティーエイトはカスタムライクなルックスが受け、大ヒットモデルとなったことも記憶に新しい。
約半世紀にわたり大きくスタイリングを変更することなく多くのライダーに愛され、これまで作り続けられてきたことは、とても偉大なことだと思う。そして、そのアイコニックなスポーツスターのイメージを脱却して、新たな一歩を踏み出したハーレーダビッドソンの勇気に敬意を抱かずにはいられない。
さて、これからの時代を担うという重大な使命を課せられたシン・スポーツスターSはどのような仕上がりとなっているのだろうか。
一昨年、ハーレーダビッドソンのフルラインナップ紹介テキストを製作している際に、あることに気づいた。それはこれまでのファミリー分けに変化が出てきているということだった。以前はスポーツスター、ソフテイル、ダイナ、ツーリングなどだったものが、ダイナが実質的にソフテイルに吸収される形で消滅したうえに、その他もファミリー構成ではなく、クルーザーやグランドアメリカンツーリングといったセグメント分けがなされたのだ。そして今回登場したスポーツスターSは、新たに「スポーツ」というセグメントが設定され、そこに分類されている。ちなみに先だって登場したパンアメリカはアドベンチャーツーリングに分けられている。このことからもハーレーダビッドソンが新たな道を歩み始めていることが伝わってくるだろう。
初めて実車を目の前にしたスポーツスターSは、ボバーともトラッカーとも思えるミックススタイルであり、全体的に質感が高いものだ。プレス写真を見る限りはもっとファットなイメージだったのだが、思っていたよりもコンパクトに纏められており好印象を抱いた。ただフロントに履かれる160幅のタイヤが少々気にかかった。というのも得てして太いタイヤはコーナーリングでネガティブな反応を見せることが多いからだ。
新開発のレボリューションマックス1250Tエンジンに火を入れる。これまでの空冷エンジンとは明らかに異なるサウンドが響き渡る。ギアを1速に入れるためにクラッチレバーを握ると、その操作の軽さに驚く。多くのハーレーダビッドソンはクラッチレバーが重く、そこもまた味だと思っていたのだが、いきなり新時代的側面を見せつけられた感じだ。
走り出すとパワフルなエンジンの主張が激しく伝わってきた。スポーツ、ロード、レインという3つのプリセットと、カスタムできるライディングモードが用意されているのだが、レインモードで十分、ロードモードで圧倒され、スポーツモードに至っては腕が抜けると思えるほど強烈な加速感を得られる。しかも怒涛のパワーを見せつけながら10000回転近くも回るのだ! 従来のスポーツスターが、ややフレンドリーなセッティングであったのに対し、触れる者を拒むかのような凶暴さを秘めているのだ。
ストリート、高速道路、ワインディングロード、どこを走らせてもスポーツスターSは楽しかった。気になっていたフロントタイヤの太さはハンドリングに問題は無く、サスペンションの動きも良いので気持ち良くコーナーをパスできるし、6軸センサーを備えた電子制御システムのおかげで、強大なパフォーマンスでありながらも破綻するようなそぶりを見せることはない。大きな声では言えないが、イタリア製スーパーバイクを追い回し、最終的にクリアすることもできた。
気になったことを挙げるとすればライディングポジションだ。フォワードコントロール気味のセットなので、強烈な加速をする際や、思い切りコーナーを攻めるような走りをしたいときに踏ん張りが効かない。それと日常的な使い方では3~4000回転付近でシフトアップダウンをすることになるのだが、トルクがある分結構忙しい。なので、クラッチレバー操作が不要となるシフトアシスト的なギミックも装備して欲しいところだ。
ハーレーダビッドソンらしいとも思える大味感はむしろ納得できるポイントとして残っており、もっと洗練した方が良いのか、それとも荒削りだから魅力的に思えるのかというバランスは答えを出すのが難しいところではある。ただ試乗テストを通して分かったことは、これはハーレーダビッドソンの長い歴史の延長線上にしっかりと立っているモデルであり、それに足す格好で意地を見せつけられた感じだ。これまでVロッドやストリートと言った水冷エンジンモデルはことごとくその姿を消してきてしまったが、スポーツスターSは、それを許されない宿命にあるのだ。
新開発された排気量1252cc、水冷60度VツインRevolution Max(レボリューションマックス)1250Tエンジンを搭載。最高出力121馬力、最大トルク125Nmを誇る。従来採用されていたエボリューションエンジンは1986年からという長い歴史があった。今回のレボリューションマックスも長く愛されることだろう。
ハイカロリーな水冷エンジンを採用していることもあり、大型のラジエーターを備えている。その下方、スポーティな雰囲気を演出するアンダーカウルの中央にはバッテリーが配置されており、低重心化に一役買っている。
楕円形とされたヘッドライトは、一瞬ファットボブ114を連想させるが、ベゼルを持たずさらにワイルドなイメージ。各部の質感も高く、リッチな仕上がりとされている。
160/70R17サイズのファットタイヤをフロントにセット。Φ43mmのフルアジャスタブル倒立フォークに、ブレンボ製モノブロックキャリパーをラジアルマウントする。シングルブレーキの制動力に不足はないが、ダブルセットするカスタマイズもイメージできる。
フォワードコントロールとされたステップバー。従来のミッションと比べ、格段にニュートラルに入れやすくなった。ギアチェンジの際、クラッチレバー操作を省略できるシフトアシスト装備の設定も欲しいところではある。
丸形の4インチTFTディスプレイを採用。様々なインフォメーションを表示することができ、視認性も良い。ただ日本語表示をすることに違和感を覚えた。
スイッチボックスは、ボタンの数が多いが割と分かりやすい構成。これまで左右振り分け式だったウインカースイッチは左スイッチボックスに集約されたが、クリックの感触がイマイチ。
スマートフォンとブルートゥース接続することができ、右側のスイッチボックスでそのコントロールを行えるようにされている。ライディングモード切替ボタンもこちら側にセットされている。
スポーティなライディングを楽しむ際、車体を抑え込めるよう、若干低めの位置にセットされたハンドルバー。バーエンドにミラーを配置している。このミラーを一つとっても高級感のある仕上がりとなっているのは、さすがだと思える部分。
ハーレーダビッドソンのダートトラックレーサー、XR750をイメージさせる形状のフューエルタンク。細く前後に長い印象だ。タンク容量は11.8Lとなっている。
独特な形状とされたスイングアーム。ドライブトレーンにはハーレーダビッドソン伝統のベルトドライブを採用。リアタイヤサイズは180/70R17となっている。
リアアクスルにセットされたステーを介して、テールランプ及びライセンスプレートが備わっている。ストップランプにもウインカーにもバー&シールドが用いられている。
ハイマウントとされた右側2本出しサイレンサー。排気熱により内ももが若干熱いと感じたが、ヒートガードを備えているため、やけどをするようなことはないだろう。
リアサスペンションは、特殊な形状をしたリンクを介してセットされている。走り出した当初は若干リアの動きが硬いと感じたものだが、トラクションは伝わりやすく、上手くセッティングされている。
シート高は755mmとなっており座面も広いので、小柄なライダーだとやや高いと感じるかもしれない。フューエルタンクと同じくXR750を思い浮かばせるシートカウルが用いられている。