ストリートグライドのアッパーモデルという位置づけでストリートグライドスペシャルが登場したのは2015年のこと。古くから続くウルトラ系特有の大型ウインドシールドを備えるシルエットをベースとしながらも、前後専用ホイールや最新バージョンのインフォテインメントシステムの採用、さらにはストレッチされたサドルバッグなど、バガーカスタムのイマを具現化したかのようなモデルとなっている。
最新の2021年モデルではホイール形状の変更や高性能エアクリーナーボックスの採用など、ディテール面でのブラッシュアップが施され、プレミアム度に磨きがかけられた。そんな最新ストリートグライドスペシャルの走り、使い勝手を考察する。
まずはストリートグライドスペシャルのベースとなったモデルでもある、ストリートグライドのことを少し触れることから書き始めよう。ストリートグライドが登場したのは2006年のこと。その後、一大ムーブメントとなるバガーカスタムの走りとも言えるモデルとして生み出された。ショート化されたウインドウスクリーンを備えるバットウイングフェアリングやトップケースの不採用、スポーティなシートなど、総じてフルドレッサー仕様のツーリングファミリーとは異なる引き締まったプロポーションで多くのファンの支持を受けた。翌2007年はインジェクションを採用したツインカム96エンジンへ、ミッションも6速化と、ビッグツインモデルがビッグモデルチェンジを行った年。ちょうどそのはざまに世に送り出されたストリートグライドというモデルは、ハーレーの命運をかけた一台として大きな役割を担っていたことが考えられる。その後ストリートグライドは細かな変更を受けながら進化を続けてゆく。そしてストリートグライドをベースに、ホイールサイズの変更や、最新バージョンのインフォテインメントシステムの採用など、クラスを超越した装備とバガースタイルで固められ2015年に、ストリートグライドスペシャルが登場する。
スクリーンを低く抑えたバットウイングフェアリングから、ストレッチされたサドルバッグまで流れるように続く、ローアンドロングなシルエット、ブラックアウトされたクールなカラーパターンなど、ハイポテンシャルを誇るワイルドさだけでなく、ファクトリーカスタムならではの上品さを兼ね備えているのが大きな特徴となっている。
ストリートグライドは2019年モデルを最後にカタログ落ちをしている。ストリートグライドスペシャルがミルウォーキーエイト114エンジンを採用しているのに対し、スタンダードモデルとも言えるストリートグライドはミルウォーキーエイト107が搭載されていたこともあり、ポテンシャルとパフォーマンス面を考慮して、2車を用意するよりも、ストリートグライドスペシャルへバトンを受け渡すことがベターだとしたのだろう。
そのストリートグライドスペシャルは、威風堂々とした佇まいながらも、都会的に洗練された様相をしており、スマートな印象を受けるものだ。シートに跨り車体を起こす。シート高は低めだが、タンクのボリュームやフットレストの左右への張り出しから、足を広げる格好が強いられるため、足元の悪い場所では注意を払いながら取り回す。イグニッションをオンにしてエンジンを始動する。排気量1868ccを誇るミルウォーキーエイト114エンジンは、心地よいサウンドも魅力の一つだ。ミッションを一速に入れクラッチを繋ぐと、アイドリング程度の回転数でありながら、375kgもの車重を忘れさせてくれるほど軽々と車体を前へと押し出す。
ひとたび走り出してしまえば、その乗り味たるや陸の王者と呼ぶにふさわしいものだ。低速域ではしっとりとした粘りのあるリッチなトルク感を味わうことができ、スピードを上げるにつれ、鍛え抜かれたシャシーや足回りによりアスリートのごとくスポーティなライディングを満喫することができる。ハンドルバーが広く遠い位置にセットされているにも関わらず、大地を這い突き進むような走りから、ヒラヒラと舞うようなライン取りまでできてしまうのは、ストリートグライドスペシャルならではの感覚だ。
2000回転も回していれば、極上のクルージングを満喫することができるが、高い回転数を駆使して走らせることもできれば、たいそう愉快なマシンだ。年中、大小様々なバイクのテストを行っているから、バイクの扱いに慣れていると言ってしまえばそれまでのことだが、ストリートグライドスペシャルのパワーは強烈であり、それを手中に収めて走らせることにこそ快感を得られるポイントがある。大柄な体躯に躊躇し、よたよたしてしまうようでは楽しめないだろうし、そのパワーに恐怖を感じスロットルをワイドオープンできないなら、魅力は半減してしまう。つまり、ストリートグライドスペシャルの本質的部分を楽しむのであれば、ある程度のライディングスキルを求められるものだと考えてもらってよい。
ただし一方でREFLEXディフェンシブライダーシステムを標準装備していることもあり、フロントの接地感が薄れるような加速を行っても、破綻することなくバイクの方で制御してくれるので、セーフティマージンは広く設定されているのも確かだ。己の技量を知りながら、電子制御を上手く活用して走らせることができれば、さらに深い世界を味わうことができるだろう。
ストリートグライドスペシャルは、その美しいスタイリングから、ファッション的視点から見た際の魅力が大きいと理解しているが、実のところ根っことなるのは、アグレッシブかつクールに走らせることができる高いパフォーマンスにあるのだと私は考える。
ボアストロークを102×114mmとした排気量1868ccのミルウォーキーエイト114エンジン。現代の技術をもってすれば、ロングストロークタイプのエンジンでも、回転の上昇は素早くスムーズなもの。最大トルクの163Nmを3000回転で発生させる。
フロントタイヤは130/60B19と、割と細めで、さらに程よく大径なサイズとされていることもあり、コーナーリング時のフロントの動きは想像以上にナチュラルなフィーリング。ブレーキのタッチ、効きも良いので、安心してスポーツライディングを楽しめる。
ウルトラ系から受け継ぐバットウイングフェアリングは、ショートにカットしたスモークカラーのウインドウスクリーンを採用している。短いながらも防風性能は高く、ライディング中に不快な走行風を大幅に軽減してくれる。
深く腰を落ち着けることができるライディングシート。パッセンジャー側もコンパクトながら厚手のクッションが採用されており、タンデムライドも快適にこなすことができる。
フェアリングの内側は様々な計器類や、スピーカー、バックミラーなどがレイアウトされている。ハンドルマウントということもあり、ハンドリングにネガティブな影響をもたらしそうに思えるが、これでバランスを取っているところが、ハーレーで驚かされるところだ。
Boom!™ Box GTSインフォテインメントシステムがインサートされている。各種車両情報の呼び出し表示をはじめ、スマートフォンと連動することで、通話やミュージックプレイヤー、ナビなどのエンタテインメント機能を楽しむことができる。純正ヘッドセットと合わせて使いたい。
サドルバッグとロングリアフェンダーが合わせてデザインされたテールセクション。バガーカスタムのお手本的なリアビューに纏められている。ウインカー、ストップランプは共にLEDが採用されている。
2-1-2タイプのエキゾーストシステム。ブラックアウトされている上に、水平方向にセットされており、美しい造形美が表れている。高性能エアフィルターの吸気音、マフラーの排気音、共に良く作り込まれている。
ボリュームがあり丸みを帯びたセクシーなラインを描く燃料タンク。容量は22.7Lと大きく、大陸ツアーサイズで設定。ボディカラーはオプションを含め11色が用意されている。
振動緩和機能を備える大型のフットボードと、シングルミッションレバーを組み合わせる。各ギアへの切り替えはスムーズであり、ストレスの無いシフトチェンジをもたらしてくれる。
ストレッチされた形状のサドルバッグは、ワンタッチロック機構で簡単に開閉することができる。開口部も広く、荷物の出し入れもしやすい。バッグ本体の着脱も容易にできる機構となっている。
伝統の左右振りわけウインカースイッチの他、インフォテインメントシステムの操作ボタンなどを備えるスイッチボックス。タッチ感や操作も分かりやすく纏められている。
リアサスペンションはプリロード調整機構を持つツインショックタイプ。デフォルト状態だとやや硬めに感じられるかもしれないので、その際はプリロードを緩めてみると良いだろう。
フェアリングの内側にはUSBポートを有する小物入れや、ソケット電源が備わっている。ガジェットを多用するような近代的なツーリングでも不満なく、快適に楽しむことができる。
FLHXS ストリートグライドスペシャルのスペックや仕様を見る >>