いよいよ日本でも走り始める電動モデル、ライブワイヤーや、アドベンチャーテイストでまとめられたパンアメリカ、さらには小排気量モデル開発の画策など、昨今ハーレーダビッドソンのモデル展開が勢いを増し続けてきた。もはや3年も前のこととなってしまったがダイナファミリーの終焉にも驚かされたことであるし、新生ソフテイルも近未来的なスタイリングを纏ったモデルが次々と輩出されてきた。そのような中、ファットボーイはかたくなに自身の道を突き進んでいるモデルと言える。
堂々とした体躯やリラックスしたポジションは、悠々としたクルージングをもたらすものであるし、過剰とも思えるほどあしらわれたクロームメッキパーツは、ストリートで人目を惹きつける。出自こそメーカーファクトリーカスタムとしてのストーリーを背負っているものの、生まれた時からクラシック、それがファットボーイなのだ。
ビンテージモデル好きや、逆にここ数年からハーレーに触れ始めた人などもいると思われるので、あくまでも個人的な思いではあるが、40代半ばを迎えようとしている私から考えると、ファットボーイはハーレーダビッドソンの王道とも言える一台だと考えている。それというのも、過去にカリフォルニア州知事として手腕を振るったアーノルド・シュワルツェネッガーの俳優としての出世作であるターミネーター2の劇中において、当時発表されたばかりの初代ファットボーイを駆って、ロサンゼルスを激走するシーンをリアルタイムで鑑賞したことや、ハーレーダビッドソンがVロッドやビューエルなど、新しい分野に手を出しはじめた時にも、ファットボーイは必ずカタログに名を連ねていた。もちろん他にも伝統的なモデルはあるのだが、私の中でファットボーイはザ・クラシックハーレー(ウルトラもそう思っている)なのだ。
ファットボーイは、ショベルヘッドを搭載したヘリテイジのファクトリーカスタムという位置づけで、初代モデルが1990年にデビューした。先述した映画の影響もあり、ハーレーダビッドソンの中でも着実に人気を高め存在感を表してゆく。2000年にはカウンターバランサーを搭載するツインカム88Bエンジンを、2007年にはさらに排気量が引き上げられたツインカム96Bエンジンが採用された上、6速ミッションとなり、より快適なクルージングを楽しめるようにさらてゆく。その後も進化を続け、2018年に行われたソフテイルファミリーのフレームとエンジンの一新によって、現在のファットボーイへとなる。30年以上もの間作り続けられているバイクというのは、なかなか珍しいものである。
これまでもファットボーイに乗る機会があったが、久しぶりに目の前にすると、落ち着いた雰囲気でありながらも、キラキラと光り輝くスタイリングに、思わず見とれてしまう。ロー&ロングなボディワークに、見るからに重厚そうなディッシュホイール。そしてそのホイールには、フロント160、リア240幅の極太タイヤが履かされる。いかにして軽く作り上げるかが求められるスーパースポーツバイクと対極に位置するような佇まいで、見る者を圧倒する。
ただしそうでありながらも、現行ソフテイルフレームは旧モデルよりも軽量化されており、全体で約15キロも軽く、さらに剛性力も高められている。現行ソフテイルファミリーすべてに言えることだが、シャシー、足まわり、エンジンのバランスがとても良く、ロングクルーズは快適でアグレッシブな走りにも応えてくれる。そのようなベースがあり、個々のキャラクターを上手く具現化しているのだ。
エンジンをかけてしっかりと暖機運転をする。温まってくるとアイドリングは800回転前後で落ち着く。いわゆる三拍子とは多少異なるものの、エンジンストールギリギリの線を攻めてくるところは、現代の制御技術が向上した表れだ。下ろしたての車両だったため、あまり回転を引っ張らないよう気を配りながら走らせるが、ミルウォーキーエイト114エンジンは、2000回転前後回すだけでも、驚くべきトルク感を味わうことができるので、低回転のみで走ることになんら支障をきたすことはない。むしろ慣らし運転を済ませた後だとしても、若干角が取れてマイルドな感触となる程度の違いだろう。
前後のタイヤが太いこともあり、路面の轍にハンドルを取られがちだが、未舗装路を走ることに長けたオフロードバイクが、細身の大径タイヤを履かせることの真逆とも言える設定であり、致し方ないところ。その分、強大なパワーをしっかりとアスファルトに伝えるホットロッダースタイルなのである。
しばしファットボーイと共にする時間を得られ、存分に楽しませてもらった。マッスルでありながらスマート。オーソドックスでありながら都会的、ファットボーイはそんなモデルだ。渋滞の中、せこせことすり抜けをして前を目指すのではなく、ドンと構えて、前方がクリアになったら、スロットルをワイドオープンし、弾丸のように突き抜ける加速感を楽しむ。シャシーと足まわりのポテンシャルが高いため、コーナーも想像以上に楽しむことができる。強いて言えば、ハンドルと着座位置、ステップボードが遠くライディングポジションがワイドであること、幅の広いタイヤのためハンドリングにクセがあるために、交差点ひとつ曲がるにもラインが広がってしまいがちだ。そんな場面では、内側のステップをしっかりと踏み込むと共に、外側の足の太ももでタンクを押し上げて、バンクを促してやると良い。慣れてくると大きなファットボーイを手足のように操ることができ、どんな場所でも痛快な走りを楽しめることだろう。
2021モデルの新車価格は273万6800円から、私はあまり進んでカスタムを楽しむ性格ではないことと、現行モデルの完成度の高さに満足しているので、できれば新車を手に入れたいし、中古であっても新型ソフテイルフレームにミルウォーキーエイトエンジンを搭載した2018以降のモデルをお薦めするが、年式が古い個体や距離を重ねたものであれば、かなりこなれた価格で手に入れることができるので、浮いた金額をカスタムやツーリング費用に当てるのも悪い選択ではないと思う。なんにせよ、どれを手にしたとしても30年ものファットボーイの歴史が垣間見えることは間違いない。
ボアストローク102×114mm、排気量1868ccを誇るミルウォーキーエイト114エンジンを搭載。155Nmの強烈なトルクを、3250回転で発生させる。パワフルでありながらも扱いやすいキャラクターとなっている。
ファットボーイの特徴の一つに挙げることができるディッシュホイール。アメリカンマッスルバイクらしいタフな印象を受ける。160/60R18サイズのフロントタイヤは、独特な操作感覚をもたらすが、それが持ち味でもある。
クロームがまぶしいほど光り輝く、大きなヘッドライトナセルは、上方にやや角ばったカーブを持たせたデザインとすることや、面発光LEDのデイライトなどを採用し、モダンな雰囲気も感じさせるフロントマスクとしている。
クラシカルなスタイリングを助長するタンクオンメーターを採用。メーターダッシュもクロームで纏められている。アナログタイプのスピードメーターをメインに、液晶部には残燃料、シフトポジション、そして時刻や回転計、距離計などを表示。
ショットガンマフラーというにはやや太めだが、全体的なデザインバランスを考えるとかなりまとまっている2本出しサイレンサー。オールドファットボーイはテールエンドが絞られていたが、エンド部まで同径でフィニッシュされている。
リジッドフレームのように見えるよう設計されたソフテイルフレームのため、リアサスペンションは外観上確認することができないが、ボディ右サイドに備えられたスクリューで、プリロード調整が可能。ストリートのソロライドなら最弱で良い。
ライセンスプレートステーは、短めにセットされたフェンダーエンドから延長されるスタイル。ウインカー内蔵のストップランプのため、テールセクションはシンプルな印象だ。
厚みのあるライディングシートは、腰をしっかりと落ち着かせることができるリラックスしたライディングポジションをもたらす。後方に向かって反り上がっているため、強烈な加速であってもガッチリと体を受け止めてくれる。タンデムシートは小ぶり。
大きな燃料タンクは、容量18.9Lと十分なキャパシティ。低回転のトルクを上手く使って走っている分には、燃費もさほど悪くはない印象だった。左側のタンクキャップはダミー。
ステップバータイプではなく、フットレストボードを採用。長時間のクルージングではとても快適。シフトレバーはシングルタイプとなっている。
リアタイヤサイズは240/40R18で、フロントに負けず極太。コーナーリング時の”立ち”は強いが、それでもしっかりと車体を寝かせれば、ぐいぐいと曲がってゆく。ハーレーダビッドソンのアイデンティティでもあるベルトドライブ。
太い径のファットバーハンドルは、左右に大きく開かれているため、コーナー時に外側の手が遠くなってしまう。なのできついコーナーなどを曲がる際には、上体をハンドルに引き寄せる格好をとると曲がりやすい。
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