FLSTSB “ソフテイル・クロスボーンズ”は2008年2月に登場したまだ新しいモデルだ。スプリンガーフォークを採用したモデルは過去にも複数あったが、どれもヴィンテージテイストを最新のエンジンで演出するモデルで、このFLSTSBのように「ヴィンテージ+現代的なデザイン」にチャレンジしたモデルはなかった。近年、XR1200やソフテイル・ロッカーシリーズなど、これまでにない斬新なデザインのニューモデルが登場しているが、メーカーが手がけたカスタム車両として登場するからにはデザインだけではなく、その乗り味も気になるところ。デザインの評価が高いFLSTSBのを味わうべく試乗を行った。
クロスボーンズの最大の特徴は、現在のハーレーラインナップの中で唯一スプリンガーフォークを採用している点だろう。ヴィンテージハーレーテイストを現行モデルに加えるため、現代に甦ったスプリンガーフォークだが、ヴィンテージハーレーで採用されていたのはナックルヘッドと1948年式の初年度のパンヘッドのみ。FLSTSBは60年以上も前のヴィンテージモデルのデザインをモチーフに開発されているのだ。バイクメーカーが過去のバイクをモチーフに新モデルを開発するのは最近では珍しいことではないが、そういった場合は1960~70年代の車両を参考にすることがほとんど。多くの場合、その理由はバイクメーカーとしての歴史が浅いことが、100年を超える歴史を持つハーレーは膨大な車両デザインの財産を持っているのだ。また、単純にヴィンテージモデルのコピーに留まらず、そのテイストに斬新なデザインを融合させているところに、デザイナーの気概が感じられる。
エンジンの不快な振動を収束させるバランサー搭載のツインカム96Bエンジンを搭載しているのはソフテイルファミリー全体の共通点だが、その他の装備についてはFLSTSB独自のものが多い。2段階のポジション調整が可能なサドルシートが純正で装備されているのはFLSTSBのみ。フェンダーやオイルタンクにピンストライプがあしらわれているのも独自仕様だ(オイルタンクのスカルロゴは2009年モデルから)。また、伝統的なハーレーのスタイルが特徴のソフテイルFLシリーズ(以下、FLシリーズ)ではリアタイヤを深く覆うリアフェンダーを装備するのが一般的だが、FLSTSBはカスタムテイストが強調されるソフテイルFXシリーズ(以下、FXシリーズ)の特徴であるボブテイルリアフェンダーを採用。リアタイヤもFXシリーズと同じ17インチ200mmのワイドタイヤを履かせている。FLシリーズでありながら、FXシリーズのテイストをうまく取り込んでいるのもFLSTSBの特徴と言えよう。ハンドルも一風変わったチョイスだ。ヴィンテージ風にするのであれば低くワイドなものを装備するのが定番だが、あえてミニエイプハンガーハンドルを採用。ほどほどの高さで快適な乗り心地を実現している。その他、ヴィンテージモデルのタンクパネルに似たキャッツアイタイプのタンクコンソールや、ブラックで統一されたリム、エアクリーナー、フェンダーレールなど、細かなところにもデザイナーのこだわりがうかがえた。
カタログスペックでは676mmとFLシリーズではもっとも高い加重時シート高だが、跨ってみると身長178cmの筆者だと両足はベタベタでかなり余裕がある。これは先端がかなり絞られたサドルシート形状のおかげだ。身長に自信がない人でも、ローダウン無しで乗ることも可能ではないだろうか。イグニッションをONにしエンジンを始動すると、他モデルより元気な排気音を奏ではじめる。やはり、このマフラー形状が純正マフラーでは一番いい音がする。うるさ過ぎず、排気音の歯切れがいい。昨今の厳しい騒音規制の中でも、これだけ上質なサウンドを実現させているのはさすがハーレーというところか。走り出す際にウィンカーをつけて見たものの、エイプハンドルが邪魔で点灯状況が少し見えづらい。しかし、面白いのはヘッドライトがかなり上に位置しているため、ウィンカーの点滅がヘッドライトに映っていること。ウィンカーの確認はヘッドライトを見れば済んだ。 フロント16インチ、リア17インチのホイールサイズ、しかもリアは200mmのワイドタイヤを採用しているため、乗る前は「走りにくいかも」と思っていたが、これが思いのほか素直に曲がる。もちろん軽快なスポーツライディングは望めないものの、以前試乗した同じホイールサイズのFLSTFよりこちらの方が走ってくれるモデルだ。リアサスがフレーム下に配置されたソフテイルフレームにスプリンガーフォークを採用したモデルがこれほど素直に走ることができるとは、正直期待していなかった。
ただ、これからFLSTSBに乗る人に注意して欲しいのが、スプリンガーフォークはスプリングが硬く、フロントがあまりストロークしないこと。停車状態でブレーキを握り、前後に揺さぶってもほとんどフロントが沈まない。そのため、フロントブレーキの利きが少し甘いので、リアブレーキやエンジンブレーキをうまく使いながら走って欲しい。タイヤサイズ以外にもう1点不安だったミニエイプハンドルでのラインディングは、これも予想に反する快適ぶりだった。ちょうど肩の高さほどになるハンドルポジションは、車両の取り回しこそ少々重いが、走行中のハンドル操作に何ら不満はない。タンクとフットボードにしっかりと体重をかけて曲がってやれば、ハンドル操作にまったく力は必要なかった。ただ1点、不満点をあげるならばサドルシートのスポンジが少々柔らかいこと。長時間の走行で少しお尻が痛くなりやすいのが気になった。もう少し固めのスポンジを採用していたら、ロングツーリングは快適になるように思える。
スタイルが気に入った人は間違いなく買い、だ。FLSTSBはハーレーどころか、他メーカーを見渡しても他に似たモデルもなく、このスタイルに憧れるならばFLSTSBを選ぶしかない。ソロ専用のサドルシートを採用したモデルのため、タンデムを考えるならば購入後にカスタムしなければならないが、そこはハーレー、カスタムパーツは豊富に用意されている。スプリンガーフォークは他のテレスコピックフォーク採用モデルに較べると、スポーツ性ではやや劣るものの、他には無い個性的なフロント周りはそれを補って余り得るキャラクターとなっている。そもそもハーレーのビックツインは峠などを攻めるバイクではなく、周囲の景色を楽しみながらのんびり走るもの。そういったバイクライフには理想的なパートナーとなるだろう。走って楽しく、眺めても楽しい、それがFLSTSBだ。
クロスボーンズを購入されるほとんどの方はスタイルに惹かれて来店されます。スプリンガーフォークやサドルシートなど、クロスボーンズにしかない装備がたくさんありますから。かなり完成度の高いモデルなので購入後にスタイルを大きく変化させるカスタムをする人はあまりいません。ただ、私ならミニエイプをあえてドラッグバーに変えてみても面白いかな、と思います。ドラッグバーにすることでノーマルとはまた違ったワイルドさを演出できるんじゃないでしょうか。それ以外にもオススメしたいのが、タンデムシートやツーリングの快適さを求めたカスタム。サドルシートだけのスタイルもカッコいいのですが、タンデムシートやシーシーバーなどもオプションで販売されているので、奥さんや恋人とツーリングをするなら必須の装備でしょう。タンデムシートを取り付ければ荷物を積んでもフェンダーに傷がつくこともありませんからね。ヴィンテージテイストのモデルなので左右振り分けのサドルバッグも似合います。積載性が気になる人はこちらも取り付けてみてはいかがでしょうか。(ハーレーダビッドソンブルーパンサー 藤原氏)
2008年式FLSTS / 大野さん(静岡県)
ハードロックやヘヴィメタルが好きで「それに似合うのはやっぱりハーレーだ」と、ディーラーを訪れクロスボーンズに出会いました。本当はナイトロッドスペシャルを見に行ったはずなのに、展示されていた車両を見て衝撃が走っちゃったんです。スプリンガーフォークはいつ見てもカッコよく、クロスボーンズを選んだのは今でもまったく後悔していません。カスタムはノーマルから大きく外れることはしていませんが、ツーリングに便利なETCを取り付けたり、グリップを好みのものに交換したり、少しずつカスタムを進めています。高速ツーリングをするときはウィンドシールドも取り付けていて、快適仕様にすぐに変更できるんですよ。