先だって発表されたハーレーダビッドソン2020年型モデルラインアップの中でも、特に注目を浴びた一台、それがFXLRS ローライダーSだ。細部までブラックアウトされたボディやスピードスクリーンの装着などを見て、ピンと来た人もいるかもしれない。そう、これは2年間だけ発売されていたFXDLS ローライダーSが復活したものだ。以前はツインショックを持つダイナフレームだったが、ダイナファミリーの撤廃によりモデル落ちしており、新生ソフテイルファミリーの一台として復活を遂げたのである。
ロー&ロングなシルエット、4インチライザーとスポーツスターのようなバーハンドルの組み合わせ、深いシートポジションなど、アウトロースタイルの集大成とも言えるローライダーSは、登場を待ちわびていたファンも多い。見た目こそ似ているが、ダイナ時代からはフレーム構造、エンジンにはじまり、すべてが新設計とさた、ニューローライダーSの中身に迫る。
ハーレーダビッドソンの持つ世界観というのは広いものであり、一概には語ることはできないのだが、どこかに”不良”を匂わせるスパイスが用いられていると思う。それは大排気量Vツインエンジンから発せられる強力な加速やサウンド、そして低く構えるライディングポジションであったりと様々な要因が挙げられる。生まれ育ったアメリカという地でも、遠く離れた島国日本であっても、そこを目指す形でカスタマイズを楽しんできたというライダーは多く存在する。それはハーレーの持つ文化のひとつであり、ハーレー自身が身をもって知っていることでもある。
そのような中、2016年に登場したSシリーズのダイナモデル、ローライダーSはフロントフォークから燃料タンク、テールまで流れるような低いラインで纏められたスタイリングに、ハイパフォーマンスなスクリーミンイーグル・ツインカム110を搭載し、アウトロースタイルを具現化した見た目と、マッスルカーのような運動性能を纏った正統派メーカーカスタムだった。
しかし2018年にダイナファミリーがソフテイルファミリーに統合されたことによりSシリーズも姿を消し、ローライダーSはモデル落ちしてしまっていた。そしてそのローライダーSが2020モデルで、ソフテイルファミリーとして復活したのだ。現行ソフテイルのシャシーが持つ高いポテンシャルは、これまでに立証済み。モノショックであっても極上の運動性能が備わっていることを期待しながら、テストライドへと繰り出した。
テスト車両を受け取りに行った場所には、多くのハーレーがとめてあった。その中でもローライダーSは、一際強い存在感を放っていた。カラーリングでみるとブラックアウトされており、他モデルに溶け込んでしまいそうなのだが、トータル的な面でのコーディネートバランスが良く、そこに目を惹きつけられるのだ。
スタートボタンを押すと、排気量1868ccを誇るミルウォーキーエイト114エンジンのクランクシャフトが回り眠りから目を覚ます。アイドリング時から野太いサウンドを楽しめるのはミルウォーキーエイト114の魅力のひとつだ。シートに腰を下ろし、まっすぐと前方へ手を伸ばすと、自然とハンドルバーへと手が掛かる。このライディングポジションは、ローライダーSを手足のように扱うために設定されているうえに、傍からスタイリッシュに見えるようなポジションとなっている。
夜の市街地を走らせる。キラキラ光るネオンの中に、黒く浮かび上がるボディは、さながらブラックダイヤモンドとでも呼びたくなる美しさ。信号待ちをしていると、隣にとまったクルマからの視線が感じられる。これは特別なハーレーなのだ。スタンダードなローライダーと比べてキャスター角が立てられたフロントフォークは、見た目以上に切り返しが軽いのが印象的。しばらくストリートを流した後に高速道路へとステージを移す。ハイパフォーマンスエンジンが絞り出す怒涛の加速、そして容赦ないコーナーリングを行ってもスマートに受け止める足まわり。ダイナ時代のローライダーSもかなり高次元の走りを楽しめる物だったが、ソフテイルのローライダーSではそれに輪をかけて高い運動性能を楽しめる。見て良し、乗って良し、これぞローライダーSの本質だ。
前述したように、ハーレーの世界観にはアウトロー的要素が含まれていることも多い。このローライダーSはまさしくそれだ。シグナルスタートで猛烈なダッシュをし、高い運動性能を武器に鉈で木を割るかのごとく、目の前に続く道を突き進んでゆく。そんなバイクを配下にしていると、おのずと”不良(アウトロー)”な自分が顔を出してくるのだ。ここで言う不良は、=悪ではないもので、憧れの対象的なニュアンスだということを理解して欲しい。学生時代に男女問わず人気があったのは、どこか危ない雰囲気を持つヤツだった。ここで大切なことを付け加えたいのは、実はソイツは運動神経が良く、勉強も頑張る努力家でもあるということだ。だからこそ惹きつけられるのである。ローライダーSはまさしくそのタイプなのである。
悪そうに見えるが実は引き締まったアスリートでもあるスタイリングは、ダウンタウンの路地裏から高級ホテルのエントランスまで場所を問わず似合うものであるし、ある種のスーパースポーツバイクと言うことができる運動性能はライディングに真摯に向き合った人ほど伝わるものだと思う。ツインショックのローライダーSを買いそびれた人には間違いなく新型をお薦めできるうえ、もしダイナのローライダーSオーナーが試乗したら、その違いに驚くことだろう。
ローライダーがミルウォーキーエイト107エンジンを搭載しているのに対し、ローライダーSはミルウォーキーエイト114エンジンを採用。低回転域から厚みを持ったトルクを楽しめる。
メインフレームに挟まれるように配置されたリアモノサスペンションのため、リジッド感が演出されたソフテイルフレーム。すっきりとしたテール周りのデザインと、しなやかなショックの動きを両立。
艶消しダークブロンズ仕上げの9本アルミキャストホイールは、フロント19インチ、リア16インチに設定されている。フロントブレーキはダブルディスクとされ、ABSも標準装備する。
ハイフロータイプのエアクリーナーを採用。ダイナ時代のローライダーSからエアクリーナー形状が変更された。雨天時などに水の浸入を防ぐためのカバーも付属する。
深く座り込むことができる厚手のシート。着座位置のバランスが良く、走行中、リアタイヤからのインフォメーションが伝わりやすいほか、腰のすわりが良く、ホールド感が高い。
ローライダーSの特徴の一つとして挙げられるスピードスクリーン。デザインはハーレーダビッドソンの日本人デザイナー、ダイス・ナガオ氏によるもので、クラブスタイルを象徴するかのような装備だ。
ローライダーの伝統を継承する形で、燃料タンク上にはふたつのメーターが備えられている。もちろん残燃料やシフトインジケーター、各種ワーニングランプも表示される。
LEDを採用したテールランプにはスモークレンズカバーが組み合わされている。このようなディテールまでトータル的にブラックアウトされており、細部まで余念がない。
フロント側のフレームに挟み込む形で備えられたオイルクーラー。場所的に目立ちにくいうえに、スタイリングにマッチするようにカバーもデザインされている。
強力なパワーを受け止めるため強化された倒立フロントフォークを採用。ローライダーの30度からローライダーSは28度へとレイク角を浅くしており、軽いハンドリングを実現している。
初代ローライダーをイメージさせるハーレーダビッドソンのロゴグラフィックが施された燃料タンク。18.9Lと大容量。なおボディカラーはビビッドブラックのほかに、バラクーダシルバーが用意されている。