ハーレーに乗るライダーに共通するフリーダムへの意識。自由でありたいからこそバイク乗り。そしてハーレーという個性に憧れを持つのである。さらにカスタムという選択は、元々人と違ったシルエットを目指すことに大きな目的があった。完全なるハンドメイドのチョッパーはその典型だろう。その一方、ビルダーの個性をユーザーが共有するという楽しさもある。『ナセル』のカスタムは、ビルダー酒井敏之氏の個性が、ふんだんに盛り込まれたものばかりなのだ。
県内2店舗で就労後2002年創業。当初、表向きにはカスタム用パーツの製造からスタートし、いまや年間20台以上のカスタムハーレーを制作するショップへと変貌した『ナセル』。現在のファクトリーは2016年4月に移転され、高崎市の西側、国道17号線沿いにある。以前よりもその敷地面積は拡大され、2階建てのショールームと、奥に広いサービスピットという構造となり、作業効率も向上。お店も表通りから見つけやすい環境になった。
広いパーキングの奥にあるファクトリー。1階がショールームだが、そこにあるのは展示車両というよりも、ユーザーからの預かり車両や納車待ちの完成車など。どんどん入れ替わっていくので、ナセルの現在を知る手がかりにもなるスペースだ。2階はオフィス、商談スペースでもある。
サービスファクトリーには、整然と作業中のモデルが並ぶ。基本的にフレーム単体まで分解し、エンジンもボルト一本まで美しく仕上げて搭載するのがナセルのポリシーだ。少し古いエボリューションエンジンだと調整修理に時間がかかるので、ツインカムベースの製作がスピーディーであるという。
スタッフは、代表の酒井敏之さん以下3名。スタッフが担当のカスタムバイクを制作するというスタイルで、日々個性的なモデルが生み出されている。
ナセルが生み出すカスタムバイクの特徴は、何と言ってもその無骨とも思えるクラシカルなシルエットと、ニュースクールイメージの融合だろう。用いるパーツはスプリンガーフォークに代表されるオールードスクールテイストなものと、ワイドホイールに代表される現代的なパーツ。仕上がったバイクを見ると、真横から見た場合と斜めから見た場合の印象が異なるシルエットとなるのである。しかも、ハーレーの基本的な骨格はほとんど手を加えずに、各種のパーツはボルトオンで装着する。ノーマルの外装はほとんど使わず、まったく違うシルエットを実現しているのだが、その気になれば元に戻すことも可能ということなのである。
極めて個性的な外装は、多くがナセルオリジナルパーツとなっていて、ボルトオン装着が可能である。塗装やメッキ加工等はオーナーの好みで様々に注文できる、言わばセミオーダーシステムでもある。
基本的に、製作ベースモデルはエボリューションの中期以降のもの。現在は徐々にツインカムモデルが主流になりつつあるという。そしてその多くはビッグツインモデルのソフテイルシリーズだ。
エボリューション時代にデビューして以来、基本骨格を変えない長寿モデル。昨年、ついに新型フレームへと移行したが、現在も数多いベースモデルが確保できる大きなメリットがあり、ナセルスタイルを維持する上で重要な要素となっている。もちろん、スポーツスターでもダイナでも、ユーザーが持ち込むベースバイクは自由で、その都度カスタムワークされていくことも多い。
今回は、現在のナセルを代表する7台のカスタムバイクを紹介しようと思う。
ベース車両は2017年のブレイクアウト。ノーマルでも個性的なシルエットだが、そのオリジナリティにナセルイズムを注ぎ込んだカスタムである。マッシブなイメージにバランスさせるために、個性的なマスクドタンクは通常よりもワイドに仕上げている。
フレーム以外の製作したパーツをほとんどクロムメッキ処理で仕上げたのはオーナーからの要望。PM製のホイールはフロントが23インチ、リアは18インチ、300ワイドである。シートはオーナーの遊び心で制作したワンオフのクロムメタルハードシート。乗車用のレザーシートも、もちろんある。ハンドルバーは、オーナーにあわせて製作されたナセルメカライドバー。フェンダーやオイルタンクなどにも装飾を施したゴージャスなイメージである。
ベースモデルは、2013年のブレイクアウト。シルバーのフレームを活かしたライトカスタムとして制作されたモデルである。ホイールは前後共にオリジナルを活かし、外装の変更も完全ボルトオンなので、すべてオリジナルに戻すことが可能である。
ハンドルバーは、ナセルオリジナルのメカライドバー。スレンレス製のポリッシュ仕上げだ。個性的なガソリンタンクはドリルドマスクドタンク。フェンダーも前後共にドリルドトリムフェンダーに変更。タックロールソロシートもワンオフ製作品。エマージェンシータンクをナセル製の専用ブラケットキットで装備している。
ベース車両は1999年ヘリテイジ。エボリューション最終モデルとして貴重な存在だ。オールドスプリンガーフォークとスポーツスタースタイルのスモールタンクの採用で、極めてオールドスクール感溢れるカスタムとなった。ホイールのリムはブラック、ハブはポリッシュ仕上げで、スポークはステンレス製に張り替えている。マフラーライン、カラーはオーナーからの要望通りに製作。
左サイドビューも極めてシンプルだ。エンジンをおろし、全バラ後、シートフレームとタンク取り付け用のステーをカット。タンクの取り付け用の穴開けと、スイングアームにフェンダー&ウインカー取り付け用のタブを5箇所溶接しフレーム、スイングアーム共に全塗装。エンジン、ミッションもリペイント、リクロ-ム仕上げし、組みなおしている。フロントウインカーステーとシッシーバー&テールランプナンバーキットはワンオフ製作。サドルレザーはLucky Village製、プレートはナセル製。
ベース車両は1997年ヘリテイジスプリンガー。ブラックに再塗装されたフレームにナセルオリジナルのマスクドタンクを装着。そしてフロントフォークはW&W製74スプリンガーに交換。ナセルスタンダードなシルエットにワイドリアホイールを採用し、ブレーキもブレンボ製を使用するなど、現代的な要素を融合したオールドスタイルカスタムだ。
フロントブレーキもブレンボ製2ポットキャリパーを採用。ハンドルのコントロールをシンプル化するために、スプリンガーフォークにマスターシリンダーを装備。ワイドリアフェンダーにWエッジクロムフェンダーステー、ドリルドトリムで個性を演出。サドルレザーはオールドコインカンパニー製、シートプレートはナセル製。
ベースは2002年のソフテイル。前後ホイール交換とスプリンガーフォークの採用で、ベース車が何であるかまったく分からないほどの変貌をとげているが、これもまたフレームはほとんど加工すること無くオールペイントで仕上げられている。全体にブラックアウトされたその外観はクラシカルなムード満点で、ついツインカムモデルがベースであることを忘れてしまいそうだ。
やはりマスターシリンダーはフォークに装着されている。マスクドタンクやヘッドライト、リアフェンダーやホイール、ドライブプーリーもすべてブラック塗装され、オリジナルのエンジンのみメッキ部分が残されている。サドル、シートボトムキットはナセルオリジナルパーツ。スライド位置調整式で汎用シートも装着可能。ステンレス製のシートスプリングもナセルオリジナルである。
ベース車両は2001年のファットボーイ。フレームはオリジナルのまま、ホイールチェンジとナセルオリジナルのシェイプタンク、フェンダー装着で個性的な仕上がりとなったカスタムである。テレスコピックフォークはワイドグライド用を採用し、トリプルツリーはアキュトロニクス製。ホイールは、フロントが21インチのリックス・ロッダーホイール。リアは同じく18インチを採用し、260ワイドタイヤを装着する。
極めてシャープな印象のシルエットは、近未来感のある印象。シートレザーはキャトルドライブ製。ナセルオリジナルのオイルタンクもブラックパウダーコート仕上げでデザインガードが装着されている。オープンプライマリーにもナセル製カスタムベルトガードを装備。ETCボックスもワンオフ製作品。アルミ製のエマージェンシータンクは、工具入れに改造されて装備する。
ベース車両は2006年のFLST。オリジナルはいかにもオールドハーレーのシルエットを演出した現代版クルーザーだが、外装を剥ぎとってシンプルなカスタム製作には良いベースとなる。フロントホイールは21インチにステンレススポークを採用し、120のワイドタイヤを装着。リアも18インチに260のワイドタイヤを装着。サンダンス製ローコンプ ピストンを組み、排気量は1,600ccにアップ。同社FCRキャブ、ツインテックモジュールも、装備されている。
個性的なハンドルバーは、ナセルオリジナルのロッダーバーステンポリッシュ。オーナーの要望でモディファイされたワンオフバーである。ガソリンタンクはシンプルなスポーツスタースタイルに、ゴールドのエンブレムを装備。3インチオープンベルトキットに、ナセルのインナーシフトキットを装着する。リアフェンダーは、クロムワイドフェンダーにナセルワンオフのエッジクロムフェンダーブレイスをセットしている。