「The new king of the road.」――。
そんなキャッチフレーズを引っ提げて登場したのが、2010年ニューモデルのひとつFLHTKエレクトラグライド・ウルトラリミテッドだ。ハーレーダビッドソンのファミリーのなかでも最高峰に位置するツーリング・ファミリーにおいて、エレクトラグライドというモデルは特別な存在感を放っていた。このFLHTKは、全モデル中最大の排気量1,689ccを誇る「ツインカム103」というエンジンとともに鮮烈にデビュー、新たなフラッグシップモデルとして脚光を浴びている。40年以上の歴史をつむぐエレクトラグライドのニューモデルはいかほどのものか、その高速走行性能を試す意味で、東京-神戸間という長距離走行を含めたインプレッションを敢行した。
「エレクトラグライド」が登場したのは1965年、最後のパンヘッド・エンジン搭載モデルにして、初の電気式(セル)スターター機能を持つなど、当時は高い注目度を誇った。以降40年以上、エレクトラグライドという名はハーレーの歴史に揉まれながらも、独自のブランド力と存在感を保ち続けている。なかでもFLHTCUなど、“ウルトラ”と冠されるモデルはハーレーのラインナップにおける最高峰を意味する言葉で、キング・オブ・モーターサイクルの象徴として君臨し続けている。そんな歴史と伝統を持つ“エレグラ”を受け継いだだけでなく、一気にフラッグシップモデルの座までかっさらったFLHTKエレクトラグライド・ウルトラリミテッドだが、その最大の理由は搭載されたエンジンに他ならない。これまでの最大排気量を更新する1,689ccの「ツインカム103」という心臓を持つ唯一無二のモデルで、ハーレーの新時代を予感させる一台だと言っていい。
“リミテッド”の名のとおり、限界超えとも言えるこの大排気量が実現したのは、ハーレー純正のボアアップキット「スクリーミンイーグル・1,690ccビッグボア・ステージIキット」をノーマル時から装備しているところが最大の理由だ。このクラスのモデルを好むユーザーは「より大きく、よりパワフルに」という傾向が見られるのだが、車両購入後にボアアップを行う場合、いわゆる「改造届出」が必要になる。ならばそれらを事前にクリアしたモデルを出してしまおう、というハーレー側の粋な計らいと言っていい。またリミットオフなのは大排気量エンジンだけではない。本モデル専用にデザインされたメーターパネルや、排気量増に対応すべく取り付けられたオイルクーラー、またエレクトラグライドではお馴染みのヒートテッドグリップ、ヒーテッドシート、ツアーパックラゲッジラック、そして長距離走行時にライダーを助けてくれるクルーズコントロール・システムやABSシステムを搭載するなど、まさしく“大陸横断バイク”として不可欠な装備をこれでもかと盛り込んでいる。アメリカを走ったことはないが、「これなら西海岸~東海岸間を往復することが不可能ではない」と思わせてくれる。
普段愛車のスポーツスターや、ごくたまにダイナやソフテイルの試乗インプレをする程度の僕にとって、ツーリング・ファミリーというカテゴリそのものが未知の世界である。しかし我に返ってこのモデルの特徴を検証してみると、シティユースではなく長距離ツーリングでこそその力を発揮することがうかがえる。「ならば」ということで、今回思い切って東京~神戸間の往復2000キロにおよぶインプレッションを敢行してみた。その車体の大きさと重さから、街中を抜け出すまではひと苦労したが、高速道路に乗ってしまえばこっちのもの。混みがちな首都高にはやや苦戦させられたものの、一気に交通の流れが良くなる東名高速道路に入ると、FLHTK本来の力を解放できる。でん部を丸ごと覆ってくれるようなシートは、ソファと形容してもいいほど座り心地が良い。特筆したいのは高速走行時のバランス感覚だ。シティユースでは難敵となるその大きさと重さが、ゆとりのあるハイウェイライドでは心強い味方となってくれる。例えば5速ギアのまま時速80キロで巡航しても快適だし、もうひとつ6速にあげて時速100キロ強で速い流れに乗ることも十分可能だ。しかしこのモデルで“走ること”を楽しむのであれば、スピードを控えめにしてトルク感を楽しむことこそ、FLHTKに乗ることの醍醐味だろう。
1,689ccというパワーが引き出すトルクは相当なものだ。スポーツスターの感覚でグリップをひねったら、思わず体が後ろに持っていかれそうなほどの加速力を発揮する。ここのパワー調整は慣れが必要だが、うまく操ることができるようになれば、あらゆるシチュエーションでもパワフルな鼓動を楽しむことができるだろう。長距離走行における疲労感も、スポーツスターと比べたら雲泥の差だ。距離にして250キロを超える東京→浜名湖サービスエリアを休憩なしで走り切れたほど。愛車なら確実に途中で休憩を挟むルートである。フロントカウルの風防は、正直なところ大きな効果は得られない。まったくないというわけではないが、完全に遮断するには至らない。しかしながら、風防のためにこのカウルデザインを変えてしまったら、それはもはやハーレーではない。
そんなFLHTKが苦戦を強いられるのが“渋滞”である。日本の道路事情とは切り離せないこの現象に陥ってしまったら、大きな車体ゆえにもはや逃げ道はない。時速20キロ程度の低速走行になると車体の重さがそのままライダーに跳ね返ってき、重いフロント周りを安定させることに四苦八苦させられる。相当のバランス感覚が要求されるこうした状況は、一般の試乗会では分からないし、これはFLHTKだけでなくツーリング・ファミリー全体の宿命と言える。良くも悪くも“大陸横断バイク”というわけだ。
日本の道を走る上で、渋滞は避けて通れない問題だ。このモデルと渋滞との相性の悪さをあえてインプレッションに書いた理由は、ツーリング・ファミリーのモデルを所有する誰もが必ず直面するポイントだからだ。だからこそ、購入を前提にお付き合いを検討している方にはお伝えしたかった。なんせこれほど高価で贅沢な一台である、誰もが気軽に乗れるシロモノではない。「それでも俺はコレに乗る!」という強いメンタリティを持ったオーナーこそ、FLHTKにふさわしいと断言したい。サービスエリアや道の駅に佇んでいるだけで「あ、ハーレー」と、一般人もが無条件で理解する存在感と風貌。さらにキャリアの長いハーレー乗りが見れば、間違いなく貴方の覚悟を理解してくれる。この一台を所有するということは、金銭面のみならず、ハートの大きさもが問われるのだ。
やはり注目すべきは、全モデル最大の排気量となった「ツインカム103エンジン」でしょう。潤沢な装備はもちろんですが、このパワーこそがFLHTKのアイデンティティと言えます。ただ、フューエルインジェクション仕様ですので、排ガス規制の関係もあって、ツインカム103といえども本来のパワーが制御されています。その力を最大限発揮するために必要なのが、インジェクションチューニング。H-D純正キットに「スクリーミンイーグル プロスーパーチューナーキット」がありまして、私も愛車のウルトラに施しています。吹け上がりが良くなり、トルク感も格段にアップしました。FLHTKを選ばれる方には、外装を触られる前に、ぜひインジェクションチューニングをすることをオススメします。
またFLHTK最大の魅力といえば、リミテッドの名が示す存在感でしょうか。スタイリングに対する好みの違いはあれど、選ぶカテゴリがツーリング・ファミリーなら、最高峰のモデルをチョイスするのがベストだと思います。ただ、記事のなかにもありますとおり、渋滞が難敵という側面も持ち合わせています。これは一般的な試乗では経験できないことです。そこで当店メガディーラー松戸では、試乗のご予約をいただければ最大2時間の試乗を承っています。これだけあれば、高速道路に乗って片道1時間は走れますので、実際の用途に近しいシチュエーションでの試乗をしていただけます。ハーレーは高価な買い物ですから、どのディーラーに行かれるにしても、いっぱいわがままを言ってください。その上で、納得の一台を購入することをオススメしたいですね。(メガディーラー ハーレーダビッドソン松戸 阪本氏)