広大なアメリカを走破するモーターサイクルを──。ハーレーダビッドソン モーターカンパニーはそんな大命題に対して、常にベストの回答と胸を張るモデルを輩出してきた。現在のツーリングファミリーがその後継者たちで、究極のツアラーモデル ウルトラにストリートグライド、そして今回紹介するFLHRC ロードキング クラシック(以下 ロードキング)が顔を揃える。1994年のデビューからちょうど20年、今なおラインナップに君臨するロードキングの誕生秘話から人気の秘訣、そして大陸横断バイクとしての能力へと迫っていこう。
ロードキングがカンパニーの歴史に登場したのは1994年。その13年前(1981年)にAMFから独立したカンパニーは、19年間ハーレーダビッドソンの心臓となってきたショベルヘッドを超える次世代エンジン『エボリューション』の開発に着手する。“ハーレーのエンジンは壊れやすい”というレッテルを払拭すべく、8万キロにおよぶ耐久テストを繰り返し、1984年に頑丈で優れたエボリューションエンジンを世に送り出した。
エボリューションエンジン誕生の10年後に登場したロードキングだが、スタイル自体はハーレーダビッドソンの伝統的かつスタンダードなものとされる。パンヘッドエンジンを積む1958年式 FL デュオグライド、そして1965年式 FLH エレクトラグライドは、ロードキングの原点と言って差し支えない姿である。その後、1977年に限定生産されたショベルヘッド搭載のFLHSを経て、1987年からロードキング デビュー前年までラインナップに並んだFLHS エレクトラグライド スポーツがベースであり、往年のFLとロードキングを結びつける存在でもある。
油圧式フロントフォークに前後16インチホイールという伝統のFLスタイルをベースに、容量22.7リットルという大きなフューエルタンク、パッシングランプ、デタッチャブル(脱着)式ウインドスクリーン、サドルバッグ、フットボード&シーソーペダルという、必要な装備をしっかりとパッケージングしたロードキング。1996年にはEFI フューエルインジェクション(以下 EFI)仕様のFLHR-I(Iはインジェクションの意)が登場、差別化を図るため1998年よりFLHR-Iは“クラシック”の名を冠され、EFI仕様のFLHRC ロードキング クラシック、そしてキャブレター仕様のFLHR ロードキングと分けられる。2007年にはどちらもインジェクション仕様となり、2012年には103キュービックインチのツインカムエンジンを搭載したFLHR103 ロードキングに一本化、2014年にはFLHRCとクラシック版に姿を変えた。
2014年、『Project RUSHMORE』(プロジェクト ラッシュモア)なる題目のもと、ツーリングファミリーの象徴であるウルトラの2台が劇的な変化を遂げた。新型の空水冷エンジン『ツインクールド ツインカムエンジン』を搭載し、デザインやフレームまでも一新したまったく新しいウルトラへと生まれ変わったのだ。それにともなってロードグライド、そしてロードキングもフレームチェンジという変化が起こったわけだが、水冷機能に不可欠なラジエターを備える場所がないため(ウルトラはロワーフェアリング内に格納)、新型エンジンの搭載は見送られることに。その他の大きな変更点としては、最新のブレーキシステムにハンドルバーなどの形状変更、新しいハイフローエアクリーナーボックス、新設計のカムの採用など。ただ、デザイン面での変更が少なかったことから、昔からのロードキング ファンはほっと胸を撫で下ろしたのかもしれない。
2000年よりツインカム88エンジンとなり、以降EFI化やさらなる大排気量モデル(ツインカム88→ツインカム96→ツインカム103)として進化してきたロードキングだが、こうして振り返ってみるとスタイルそのものが不変であることに気づかされる。それはすなわち、もっともハーレーダビッドソンらしい姿を今に継承している希有なモデルであることを指していると言えよう。日本の約25倍とも言われるアメリカ大陸を走破することを求められつつも、111年の歴史に対するリスペクトを忘れないロードキングに王冠が授けられているのは、至極当然のことなのだろう。
跨がった際の第一印象は、やはり“大きい”のひとこと。決して足が長いとは思わないが、身長174センチの私が足着きを確認しようと両脚を水平におろすと、踵がやや浮いてしまう。足の裏の半分は着地しているので、実際に走るうえでは何ら問題がないのだが、これが小柄な女性となると難が大きくなる。跨がると足はつま先立ちとなり、そしてスタンドがはらえないというのだ。身長180センチほどのアメリカ人を想定したボディ設計から、バンク角をきちんと確保した構造であることはもちろんだが、気になったのはシートの幅広さだ。
シートの横幅が広いと、跨がるライダーの股間部分が広がっていき、足は外へと開いていく。大柄なアメリカ人なら長い足でしっかり大地を踏み締められるだろうが、成人男性の平均身長が170センチ前半の日本人となると、広がった分は地面が遠くなってしまう。これを解消するためには、股間部分にかかるシート幅を細くすること。これによって両脚がストンと真下に降りるので、ローダウンせずともこれだけで足着き性は一気に向上する。ただし、足が真下に降りると突き出しているエンジンのプライマリーカバーなどに接触する可能性もあり、例えばデニムやレインジャケットが焼けてしまうということも起こり得る。それでも車体を支えるバランスを取るということは必要なことだから、ビッグツインモデルのシート交換を検討している方は、その点にもご留意いただきたい。
実は昨年(2013年)夏、ハーレーダビッドソン創業110周年記念イベントで米ミルウォーキーの本社を訪れた際、Project RUSHMORE発表にともなってのニューモデル試乗会でロードキングに乗らせていただいた。しかも数キロ程度ではなく、約650キロにもおよぶ距離を、である。本国仕様とされるロードキングは実にトルクフルで、排気量1,689ccのパワフルな鼓動がモリモリと路面を踏み締め、風を切り裂くようにハイウェイを駆け抜けていった。その点を踏まえて、排ガス規制からEFIのセッティングが変えられている(パワーが抑えられている)日本仕様のロードキングに乗ると……やはり物足りなさを覚える。もちろんツインカム96Bのソフテイルやツインカム96のダイナなどのモデルと比べても十分にパワーを感じるのだが、103キュービックインチのパワーを引き出し切れているかと言われれば、答えはノーだ。ロードキングのオーナーを検討されている方は、ぜひともEFIチューニングを導入し、そのパワーをしっかり体感してほしいと思う。
2014年モデルからの仕様変更として注目したいのは、剛性アップしたフレームの変更と最新のブレーキングシステムの導入だろう。まずフレームについてだが、ウルトラを軽やかに感じたほどの高剛性はこのロードキングでも体感できた。低重心ではあるものの、ツーリング用アイテムをパッケージングしたモデルであることから車両重量は371キロと相当に重い。その重さを思い知らされるのは停車時の取り回しなわけだが、走り出せば一転、「この図体でこれほど軽やかとは!」と驚かされるほどスポーティかつコントローラブルな挙動にワクワクしてしまう。操りやすいようにと配慮された新設計のハンドルバーの恩恵も多分にあるし、前後16インチのFL仕様ホイール&タイヤにしっかりとセッティングされたサスペンションという足まわりから、そのままワインディングに飛び込んでも軽快に駆け抜けていってくれるだろう。
またその走りを大きくサポートするのが、最新のブレーキシステム『リフレックスリンクドブレーキ』だ。これは前後ブレーキを連動させる新機能で、時速32~40キロ以上での走行中にハンドルブレーキ(またはフットブレーキ)だけをかけると、自動的に前後ブレーキが連動してバランスよく減速させてくれるもの。以前だと片方だけの急ブレーキをかけると走行バランスを崩してしまうというケースもあったのが、この新システムがそうした弊害を大いに減少させるわけだ。実際に一定の速度からハンドルブレーキだけをかけてみると、フットブレーキを踏んでいないのにリアブレーキが効いているのを実感できた。走行性能を引き出すフレーム変更との組み合わせにより、以前のロードキング以上に“走って楽しいモデル”へと進化したことは間違いない。
ロードキングのスタイルを見れば一目瞭然、古き良き時代のアメリカの情景を蘇らせるクラシカルなビジュアルこそが最大の魅力である。そこに加えて、2014年よりモーターサイクルとしての基本的な部分……走る、曲がる、止まるを一気にレベルアップさせ、ツーリングの楽しみをさらに倍増した。ただ、「高い走行性能を備えたツアラーでロングツーリングを快適に楽しみたい」というのであれば、ウルトラやロードグライド、トライクでも十分味わえる。ロードキングで味わうべきは、ロードキングにしか醸し出せない旅情であり、自分と愛車が映り込む情景を鮮やかに夢想できる方こそオーナーにふさわしいのだと思う。ロードキングは、そんな新しいオーナーの夢を叶える旅へと誘ってくれる素晴らしい相棒となってくれることだろう。