VIRGIN HARLEY |  大橋 隆幸(ロードボンバー)インタビュー

大橋 隆幸(ロードボンバー)

  • 掲載日/ 2008年02月01日【インタビュー】

ハーレーインタビューの画像

新しいモノに対する好奇心
それが僕の原動力かな

カスタムショップというと「旧車の取り扱いが多い」というイメージを持っている人が多いのではないだろうか。エボやショベルを主に取り扱い、現行のインジェクションモデルは触らない、そんなショップは珍しくない。しかし、現実を見ると街で見かけるハーレーの大部分はツインカム88、96。インジェクションモデルもいまや珍しくも何ともない。こんな状況になっている今、現行モデルのオーナーが頼れるカスタムショップがもっと増えて欲しい。今回紹介する兵庫県小野市の「ロードボンバー」は、現行モデルオーナーが頼れるカスタムショップだ。フルカスタムからインジェクションチューンまで、仕様変更の多い現行モデルにも対応できるショップで、遠方からロードボンバーを頼ってくるお客さんは多い。常に最近モデルに対応していくのは大変なはずだが、それを支える情熱はどこからやってくるのか。オーナーの大橋さんに話を伺ってきた。

Interview

海外にも目を向けています
最近ではタイが面白い

ー大橋さんはもともと車のメカニックをされていたんですよね。

大橋●学校を卒業してから、23歳まで車を触っていました。でも、どうせなら好きなことでメシを食いたいじゃないですか。バイクには16歳のときから乗っていてずっと好きだったんで自動車の経験を活かし、独立してバイクショップをオープンすることにしたんですよ。

ー最初からハーレーを扱っていたのでしょうか?

大橋●いえ、最初は国産の旧車をメインで扱っていましたね。Kawasakiの「Z」をレストアしたり、カスタムしたりしていました。ショップをスタートさせた頃から車両販売というよりカスタム志向だったんです。

ーなぜ国産旧車からハーレーのカスタムに移行したのですか?

大橋●独立して間もない頃から、プライベートではハーレーに乗っていたんです。最初に買ったのはエボのスーパーグライド。何とか格好よくできないか、とカスタムをして遊んでいたんです。結局思うようなカタチにならず、売ってしまいましたけれど…。その後、スプリンガーやショベルのFL、ソフテイルカスタムを手に入れ、ハーレーの世界にどっぷりと浸かってしまいました。カスタム志向が強い僕にとって、ハーレーは自由にイジることのできる面白い素材でしたね。国産車ではフレームにまで手を入れることは滅多にない。カスタムにしても他車種のパーツを流用して足回りを強化するなど、ハーレーに比べると仕事でできることが限られていますから、ハーレーのカスタムに惹かれたのでしょう。

ー国産車に比べて、走行性能の差にショックを受けたりなどはありませんでしたか。

大橋●確かにかなり差はありましたが、性能が劣っているのは気にならなかったですね。むしろそれが面白さに繋がっていた。低回転からトルクがあるので、飛ばさない…だから危険が少ない。日常的な速度でスリルやエンジンフィーリングを楽しむことができるのが面白いと感じました。しかも、カスタムでイメージをガラっと変える楽しみもある。もともと旧車を扱っていたから、バイクに性能だけを求めていたわけではなかったんですよ。

ー海外に行ったときにも、ハーレーとの衝撃的な出会いがあったとか。

大橋●90年代半ばにイギリスに旅行に行ったときですね。街でたまたまハーレーのカスタムショップを見かけ、覗いてみたら、信じられないくらいクオリティの高いカスタム車両が並んでいたんです。当時からすれば「ここまでやるか…」というレベルの車両がゴロゴロと展示されていて、興奮させられっぱなしでした。調べてみるとハーレーのパーツは国産車と比べにならないくらい豊富で、それまで自分が思っていた以上にどんな方向にも、どんなスタイルにもカスタムすることができるんだな、と。

ーその出来事がきっかけで、興味がハーレーに向いた、と。

大橋●“ハーレー”というよりは“カスタム”ですね。完成度の高いカスタム車両を日本に紹介したくて、一時はタイタンというコンプリートモデルの販売に携わったこともありました。ただ、当時は今以上に「ハーレーであること」にこだわる人が多く、ウチもハーレーをベースにしたカスタムが中心になってきました。今くらいカスタムに理解がある人が多ければ、コンプリートモデルも高く評価されるかもしれません。コンプリートモデルの販売は10年くらい早すぎましたね。

ー今、ロードボンバーで扱うハーレーはツインカムエンジンが中心、古くてもエボのようですね。何かこだわりがあるのでしょうか。

大橋●個人的にショベルヘッドに乗っていた時期はありましたが、お客さんには簡単にオススメできませんから。トラブルなく旧車に乗っているオーナーさんもいますが、やはりトラブルの心配が少ないのは現行に近いモデルですし…。あと、僕は新しいモデルが出ると興味があってアレコレ触るので、それを聞きつけて新しいモデルのお客さんがやってくる、だから自然と新しいエンジンのお客さんが中心になってくるんでしょうね。

ーインジェクションチューンを始めたのも早かったですね。

大橋●日本でインジェクションが導入されはじめた当初は「やっぱりキャブレターモデルでしょ」のような議論が行われていましたが、ヨーロッパでは2002年からすべてインジェクションモデルに統一されていました。そういう流れをみていると、日本でも同じようになるのはそう遠くないのはわかっていましたからね。インジェクションに文句を言う前にイジって遊んでしまおう、と。僕たちはプロですから、ネガティブなことを言うよりも「いかにそれを楽しむか」に取り組むが面白いでしょう?

ー海外と接点が多いから、そういう視点になってくるのでしょうか。

大橋●日本にはないシーンの動きがありますし、面白いパーツが海外で発売されることも多い。海外シーンに振り回されるつもりはありませんが「今、何が起こっているのか」を見るのは重要でしょう。最近でこそ、アメリカには年に2度ほどしか行かなくなりましたが、以前は仕事を兼ねて頻繁に訪れていました。アメリカ以外にも面白いハーレーシーンの国があって、最近はアジアを訪れることが増えてきていますね。あまり知られていませんが、タイなんか結構ハーレー熱が盛り上がっているんですよ。

ータイ???

大橋●タイでは毎年秋に「バンセンバイクウィーク」というバイクイベントが開催されていて、最近はロードボンバーとして車両展示をしています。日本のカスタムショーより熱気がスゴイですよ。ハーレーの歴史自体はまだ短い国ですが、カスタム車両のレベルはかなり高い。バンセンバイクウィーク以外にも各地でバイクイベントが開催されていて、日本のハーレー乗りの人にもぜひ遊びに行ってみて欲しいですね。ハーレー以外にも、スーパーカブのカスタムも盛んで、日本とはまた違うバイクシーンが楽しめます。

ータイではハーレーを購入できる人はどのくらいいるのでしょうか。

大橋●ハーレーに限りませんが、タイでは輸入車に100%の関税がかかります。日本より車両価格は高いんですよ。それでも、それでも熱狂的なファンはいるんです。昔の日本のように地元の名士にハーレー愛好家が多く、地域のイベントもそういう人たちがサポートしています。

ーカスタムを手がけるショップも多いのでしょうか。

大橋●日本ほど充実はしていませんが、あります。タイに移り住んだ外国人にもハーレー乗りが多く、そういう人たちがタイにカスタムカルチャーを持ち込んだのでしょうね。

遠くから来てくれる人に応えたい
そのためにチャレンジし続けるんです

ーロードボンバーは兵庫県小野市という都心からは少し行きづらいところにあるのに、遠くからのお客さんが多いようですね。

大橋●関西圏以外からのカスタム依頼も結構多いんです。小野市はハーレー人口がそれほどいないはず。地元のお客さんはあんまりいなくて、遠方から来てくれるお客さんがほとんどですね。近くにもハーレーショップがきっとあるはずの人が、わざわざウチに来てくれるのは嬉しいことですね。

ー他にはない特徴があるからでしょう。カスタム以外だとインジェクションチューンの依頼が多いようですが。

大橋●「もっと鼓動が欲しい」、「マフラーを換えたから調整して欲しい」などがきっかけでインジェクションを触る人は増えています。ただ、最近はお客さん自身でインジェクションを触り、セッティングがおかしくなって持ち込まれる車両も結構あるんです。

ー自分ではあまり触らない方がいいのでしょうか?

大橋●あまりオススメはできません。メーカーホームページや、海外ユーザーのセッティングデータをそのまま使う人が多いようですが、アメリカと日本では気候や標高の差などからそのままでは合わないデータが多い。「データ補正のためにエキパイにO2センサーがついているでしょ?」と思うかもしれませんが、O2センサーが補正できる範囲にも限界がありますから。

ー最初に入力するデータが重要になってくる、と。

大橋●いきなりセッティングが出ることはまずありません。ウチでは一度入れたデータのログを取って、ベンチに乗せて修正を加えていくやり方を取っています。ウチが扱っているインジェクションコントローラーは入力されたデータの走行中のログが取れるので、試乗した後にログを見ながら修正を加えることができるんです。「この回転数でのO2センサーの値はおかしい。ここの数字は無視する」細かく修正を加えて、オーナーさんが満足できるモノに仕上げていきます。

ーインジェクションチューンはポン付けではすまない、と。

大橋●インジェクションはキャブレター以上に細かくセッティングができますが、一般に公開されているデータでは限界があります。細かく設定しないと、せっかくのインジェクションのメリットを100%活かすことはできません。結局は触る人の経験と過去のデータの蓄積になってくるんですよね。ガソリンと空気の混合比、空燃費もちゃんと見てやらないと、触媒が有効に機能しなくなってしまいますし。

ーと、いうと?

大橋●エンジンに送りこまれる混合気(空気とガソリンが混ぜられたもの)の、空気の質量をガソリンの質量で割った値を空燃費というのですが、理論的には空燃費は14.7が理想とされています。実際はもう少し小さい値が最適なのですが、値が大きすぎるとガスが薄くなり、エンジンに悪い。小さすぎるとガスが濃くなりすぎて触媒では処理しきれない汚れた排気ガスが排出される。こういうところまで気を遣わないといけません。

ーインジェクションは何か難しそうですね…キャブレター化する人の気持ちがわかる気がします(笑)。

大橋●インジェクションでも充分に楽しいフィーリングを得られるんですけれど、キャブレターのあの独特のフィーリングもまた気持ちいいものです。ハーレーはTC96になってTC88よりエンジンがロングストロークになり、TC96をキャブレター化すればTC88以上に鼓動感は出ますね。「キャブレターとインジェクション、どちらがいい?」と聞かれると困りますが、どちらも対応できるようにしています。

ー世界的な流れなので仕方がありませんが、環境規制がどんどん厳しくなっていけばハーレーの空冷エンジンはどうなってしまうのでしょうね。

大橋●遠い将来のことはわかりませんが、今のところは空冷エンジンのままで対応できると思いますよ。排気ガスをクリーンにするために犠牲になるパワーは排気量アップで補えるでしょうから。TC96もその流れで排気量が上がっているはず。何十年か先にはガソリンエンジンが無くなり、ハーレーも水冷やハイブリッド化しているかもしれませんけれど(笑)。

ー最近のハーレーは車両の仕様変更がやたらと多いですよね。新しい技術に対応していくのは大変では?

大橋●新しい技術に対する好奇心がありますし、新しいことにチャレンジしていかないとお客さんが来てくれなくなる不安もあります。ただ、新しい技術が採用される度に車両を購入して走るので投資額が大きいんです。こういうところにお金がかかって、全然儲からない(笑)。「ウチはエボまでしか触らない」と、そんなスタイルでやれればいいんですが、つい好奇心に負けてお金を使ってしまうんです。

ーこの世界で仕事をしはじめてもう20年以上になりますが、好奇心はまだまだ尽きませんか? 将来やってみたい夢などはありますか?

大橋●まだまだやりたいことはたくさんあります。10年前にコンプリートバイクを取り扱っていたときはうまくいきませんでしたが、目が肥えたお客さんもいる今なら認められるかもしれませんし。僕たちが作りたい理想のカスタム車両を製作してみたい。海外シーンでウチの車両がどれだけ認められるのか、も試してみたいですね。案外、海外に引越ししてカスタム車両を製作しているかもしれませんよ(笑)。作りたいモノがあればどこでも楽しんで行ける気がしますから。

プロフィール
大橋 隆幸
44歳。兵庫県小野市「ロードボンバー」主宰。現在は2008年モデルのツアラーに乗るが、過去にはショベルヘッドに乗っていた経験もある。ハーレーだけではなく、国産旧車への造詣が深く、根っからのカスタムフリーク。

Interviewer Column

取材が終わったあと、大橋さんにタイのバイクイベントの写真を多く見せてもらった。カスタムのレベルの高さもさることながら、カスタムペイントの色合いの違い、外装のスタイルの違いなど、日本のシーンとは違う雰囲気がある。日本に住む我々には、海外シーンについては限られた情報しか入ってこないが、実際に足を運べば大いに興奮させられるモノがあるのだろう。ハーレーが生まれた地アメリカについ目が向きがちだが、アジアにも面白いハーレーシーンがある、それを知ることができてよかった。タイでの車両価格はまだ高いようだが、将来、関税率はグッと下がる予定なのだとか。最近、定年後を海外で暮らす人が増えてきているが、ハーレー乗りは定年後をタイで過ごす、そういう選択肢もアリかもしれない(ターミー)。

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