今回ご紹介するのは大阪府大阪市に住む笠間キヨシさんだ。柔道やアメリカンフットボールで鍛えた巨体で小振りなアイアンスポーツ(以下、アイアン)に跨り、大阪市内を駆け回っている。「この巨体を活かすためにアイアンに乗る」や「ラフにハーレーを楽しむ」など、笠間さんのハーレー観は一風変わっている。「いかにも」なハーレー乗りのスタイルでハーレーを楽しむのもアリだとは思うけれど、笠間さんのような「ラフな」ハーレーの楽しみ方も面白い。笠間さんお話をお聞きすることで、ハーレーの違った楽しみ方を知っていただければ、そう思い今回はインタビューを行った。
笠間●どんな噂ですか(笑)。見た目にかなり印象的みたいですからお会いした人に覚えてもらえることが多いですね。でも、僕がアイアンスポーツに乗っている姿のギャップが大きいのは狙い通りなので、嬉しいですね。サーカスで熊が小さなボールに乗る芸を見たことはありますか? 僕がアイアンに乗っている姿もあんな風に見えればいいな、そんな狙いもあって、わざとコンパクトなアイアンに乗っているんですよ。今日着ている白いファーコートも白熊を意識しています。白熊がアイアンに乗っているのをイメージしてみて楽しんでください(笑)。
笠間●もちろん笑いのためだけで乗っているわけではないですけれどね。「何でアイアンに乗っているの?」と聞かれたら、とりあえずこう答えた方が面白いですから。
笠間●国産バイクでは僕の体重を支えきれなかったみたいで、降りてしまいました(笑)。体重が重いので燃費が悪くなるのは仕方がないですけれど、サスペンションがヘタったり、シートのウレタンがダメになったり、と「体重のせいかな?」と思うトラブルが多かったんですよ。僕みたいな大柄な人間が乗るのは想定外だったのでしょうね。でも知人から「ハーレーなら大丈夫なんと違う?」と言われたことがあって「確かに、ハーレーやったらこの体重を支えられるかも」と気になっていました。それに「僕、バイクに乗っているねん」と出会った人に話すと体格のせいなのか「ハーレー?」と言われることが多くて。そんなに言われるんだったら一度ハーレーに乗ってみるか、と。
笠間●エボリューションのウルトラでした。仕事で動き回るときにバイクで移動することもありますし、近所に買い物に行くときも使いますから、その辺に停めておいても盗まれないようなハーレーを探していたら、たまたまカウルが外された、あまり綺麗ではないウルトラを見つけて。僕の体重をちゃんと支えてくれましたし、大きさの割に気軽に乗れて「ハーレーもなかなかやるじゃない」と思いましたよ(笑)。近所を走り回ったり、東京まで仕事で出かけたり、どんな使い方もできるいいバイクでしたね。
笠間●ずっとお世話になっている「Nice! Motorcycle」のホームページで今のアイアンを偶然見つけてしまったのがきっかけでした。当時、アイアンスポーツがどんなハーレーなのかも知りませんでしたが、見てすぐに「コレだ!」と思ってしまって。「Nice! Motorcycle」さんには「笠間さんにはこのアイアンは小さすぎますって。辞めた方がいいですよ」と最初は断られたんですけれど、どうしても欲しかったので無理にお願いして譲ってもらいました。
笠間●そのギャップがいいんです。僕がビックツインに乗っていると、確かにサイズ的には似合うかもしれませんけれど「意外性」や「面白さ」はありませんよね。アイアンを見たときに「この体格を生かせるハーレーだな」と閃いたんですよ。「違和感はあるんだけれど、面白い」それが狙いでした(笑)。僕は小さい頃から、ギャップがあるモノに惹かれることが多くて。大きな体の「高木ブー」が小さなウクレレを弾いている映像を見て「素敵だ!」と感じるような子供でした。
笠間●アイアン自体の魅力に惹かれなかったら「見た目とのギャップ」で遊ぼうとは思わなかったでしょうね。「ただ小さいバイクに乗りたかった」わけではないんですよ。アイアンはコンパクトに造られているのに各部のパーツには迫力がある。僕は普段、アパレルのプランナーの仕事をしているので、いろいろなモノのデザインを観る機会が多いのですが、アイアンを見たときに「コンパクトな車体なのに綺麗な造形だなぁ」と惹かれて。魅力があったからアイアンで遊んでみようかな、と思えたんです。
笠間●ウルトラにももちろん造形美はありましたが、アイアンの「コンパクトな車両なのに造形美がある」部分に強く惹かれたんです。僕はサイズが小さいモノほど、デザインするのは難しい、と思っています。デザインできるスペースが限られていますから、ゴチャゴチャといろいろなデザインを詰め込むことはできません。だからと言って単にシンプルにするだけでは見る人の印象には残らない。小さなアイアンからあれだけの造形美が感じられるなんて、優れたデザインだと思います。
笠間●バイクのデザインは他にもたくさんの制約があって難しいはずです。大排気量だとエンジンのサイズは大柄になりますし、人が跨る乗り物ですから一定のサイズ以下のフレームにはできません。その上、動く乗り物ですから機能や性能を犠牲にしたデザインにもできません。そういういろいろな制約を受けながらデザインしなければいけないなんて、本当に大変だと思います。だからこそ、制約の中で造られたはずのアイアンスポーツがデザインから見ても優れている、それが驚きでした。
笠間●僕は古い車も好きなので「旧車だから」と不安になることはなかったですね。「マグネトー点火」や「逆ペダル」など、現行車とは違うところはありましたけれど「乗っているうちにきっと慣れるだろう」と楽観的に考えていました。50年近く前のハーレーですから「トラブルはあるかもな」とは思っていましたけれど、この2年間大したトラブルはありませんでしたね。
笠間●ほとんどしません。僕はお店に行って、新しく入ったハーレーを見たり、他のお客さんが遊びに来ているのを見たりするのが好きで。何かと用事を作ってはよく遊びに行っているんです。自分でオイル交換やメンテをやってしまうと、バイク屋さんに行く用事が無くなってしまうでしょう。だから自分ではアイアンは触りません。それに、オイル交換と言っても、経験を積んだプロにお任せすると他の具合の悪いところも見てもらえますから。自分で触るのは出先でトラブルに遭ったときの応急処置くらいですよ。旧車乗りの人は自分で触る人が確かに多いですけれど、何でも自分でやらなくても別にいいんじゃないかな、と僕は思いますね。
笠間●英車に対抗して造られたバイクみたいですから、飛ばせば速くも走ることはできますよ。でも、僕は何故か飛ばしたくはならないですね。ほとんど60~80kmくらいでのんびりと流していますよ。
笠間●「乗って楽しい」「操作して楽しい」「見て楽しい」。僕がバイクに求めるのはこんな楽しさなのですが、今のアイアンはこの3つをすべて満たしてくれています。もちろんウルトラも充分面白いバイクだったんですけれど、自分との体格のギャップやデザインから考えると「見て楽しい」分、アイアンの方が魅力的ですね。
笠間●そうですね。普通の体格の人がアイアンに跨ると「カッコよく」映ってしまうでしょう。僕が跨るからこそ「面白く」見えるわけです(笑)。実は「見て楽しく」見えるように、アイアンだけでなく僕自身も気をつけていることがあるんです。
笠間●「いかにもハーレー乗りっぽい格好はなるべくしないように」です。ずっと憧れて、ハーレーを手に入れた人がワイルドな格好とシルバーのアクセサリーで身を包むのはわかりますし、カッコいいと思いますけれど、僕にとってのハーレーはそういう存在ではありませんから。ハーレーから連想する言葉って「ワイルド」や「カッコいい」が当たり前ですよね。でも、僕は自分がアイアンに乗っている姿を見て「面白い」や「笑える」という言葉を連想して欲しいんですよ。だから服装も「面白い」格好が好きですね。
笠間●真面目にハーレーに乗るのは…僕にはちょっと息苦しいですからね。「ハーレー乗り」と言葉でイメージできるスタイルを裏切って、周りを楽しませたい。そうしたら自分も楽しめるな、と。こんなラフなハーレーとの付き合い方をするバイク乗りがいてもいいでしょう(笑)。
肩肘を張らず、ハーレーを楽しむ笠間さんは温和で、すぐにその雰囲気に馴染むことができた。笠間さんも巨漢だが、私も推定体重が0.1tほどある。お腹が出ているのをどう誤魔化すか、という話題になったとき、笠間さんが「『デブの思春期』って知っています? 皆、最初はお腹が出てるのを隠そうとするんですが、思春期を過ぎるとシャツをズボンに平気で入れられるようになります!そうなると体型を武器に笑いを取れるようになりますよ」とアツく語ってくれた。エンターテイナーとしての笠間さんのスタンスは徹底している。普段からこういうスタンスで周りを楽しませているので、ハーレーも同じスタンスで楽しんでいるだけ。そういうことなのだろう。ハーレーとオーナーの無理のないラフな関係が私はちょっと羨ましい。(ターミー)