ミーティングに行かなければ、入手できないシルバーアクセサリーがある。そんな噂をずいぶんと前に聞いた。そんな噂のシルバーアクセサリーを製作しているのが、今回紹介する「Give me a wing」。代表の関岡さんの運営するブランドだ。ミーティング会場から評判になった関岡さんの作品ファンはバイク乗りばかりにはとどまらない人気だ。全てが手作りのため、作品生産に追われる嬉しい悲鳴の日々。
これほどに名が知れ渡るようになった現在も、なぜ実店舗を持たずミーティングなどの販売に徹しているのだろうか。シルバーアクセサリー製作をはじめることになった経緯からお聞きしてきた。
関岡●16歳で免許を取りました。当時はまだ排気量が限定されないバイク免許でしたから何にでも乗れたんですよ。最初のバイクは「YAMAHA XS650 スペシャル」。ここからバイク人生が始まりましたね。
関岡●ゆったり乗れる感じが好きだったんです。XS以外にもアメリカンタイプのバイクばかりに乗っていましたね。
関岡●20年ほど前、当時私がデザイン事務所をやっていた頃に、あるファッション誌のグラビアを撮影したんです。それがレザー特集でね。「レザーにはハーレー」ということになって、知り合いのヘアメイクの方が乗っていたハーレーを撮影用に借りたんですよ。以前からの憧れていたバイクを目の前にしてしまい、我慢できなくなってしまいました(笑)。実はそのヘアメイクの方は新婚だったので「恐らくバイクどころではないだろう。お願いすれば譲ってくれるかも…」と、勝手にそう考えてね。でも、結局は大切にしているモノなので売ってもらえませんでした。でも、僕がよほど物欲しそうな顔をしていたのでしょうね、ヘアメイクさんが僕にハーレーショップを紹介してくれたんですよ。
関岡●そうです。店頭に赤い79年式FLHがありまして。一目惚れですよ。デザインの仕事で独立してそれほど経っていない頃でしたから、購入するかどうかは相当悩みましたね。でもそのときに立て続けに仕事が数件入りまして「これは神様が『買え』と言っているんだな」の勝手な解釈と(笑)、妻の「買いなさい」の一声で購入してしまいました。
関岡●最高でしたね! 国産バイクに乗っていた頃は、仕事はほとんど電車を利用していたのですが、通勤も営業もすべてハーレーで走るようになりました。ハーレーに乗りたくて仕方なかったんでしょう。仕事もハーレー、休みの日もハーレー。とにかくハーレー漬けの毎日でしたね。僕は車の免許を持っていないので、どこへ行くのもハーレー、という生活になりました。
関岡●みんなにそう言われます(笑)。でも、都内は車がなくても不便は感じませんよ。公共の交通機関がほぼ完璧に整っていますし。車が必要だと思わなかったんですよ。
関岡●昔からバイクだけでやってきましたから「いまさら車の免許を取るのは面倒くさい」という理由もありました。高速二人乗りができない頃は、夏に海に行くのにも下道で遊びに行っていましたよ。暑くても、寒くても、雨が降っていてもハーレーと一緒の日々です(笑)。エアコンのついている車は快適なのでしょうけれど、バイクの持つ開放感は特別なモノがありますよね。先日もハーレーに乗り、交差点で信号待ちをしていたときに「ああ、空を飛ぶ鳥のようだな」と感じたんです。バイクの魅力にここまで漬かってしまうと、もう車が欲しいとは思えません。
関岡●ベンツはありませんけどショベルヘッドが2台です。79年と71年で両方ともFLH。ただ1台はサイドカーですから、ひょっとしたらベンツよりも贅沢をしているのかも知れませんよ(笑)。
関岡●妻を後ろに乗せて長い距離を走ると、後ろで眠ってしまうことがよくあったんです。それが少し怖かったのと、何よりもサイドカーならバイク二人乗りが禁止されていた当時でも高速道路に乗れましたから。それでサイドカーを探していたら、最初のハーレーを買ったショップが探してくれ「アメリカに純正の良い出物があるよ」ということで、日本に引っ張ってきてもらいました。
関岡●その頃、仕事は順調でしたから。バブル崩壊と騒がれていた時期でしたけれど、現在のような焦燥感もなく、まだまだのんきな時代でした。あまり迷うことなく買ってしまいましたね。
関岡●もともと妻がジュエリー作りの学校に通っていたんです。シルバーではなく“ハイジュエリー”と呼ばれる金やプラチナを使うジュエリーでしたけれど。その学校に「石研磨」という教室もあって、そこに遊び半分で入ったのがきっかけですね。
関岡●そうです。もともと何かを作り上げるのが好きで、大きな荒い石を磨いてピカピカにしていくことが楽しくなったんです。そうなると今度は磨くだけではなく、それを使って何かを作りたくなり、妻の誕生日にネックレスを作ってあげました。それが今の「Give me a wing」のはじまりです。
関岡●バブルが終わってしばらくすると、デザインの仕事が減ってきていたんです。でも、仕事が減れば時間もでき、シルバーアクセサリー作りに没頭することができました。作れば作るほどイイモノができるようになるので、仕事が減って落ち込むこともなくシルバーアクセサリーの製作に夢中になっちゃいました(笑)。自分が作ったモノもだんだんと売れるようになり、本職のデザインとジュエリーの収入が逆転し、今に至るわけです。
関岡●最初は単なる趣味で、自分が身に付けたいものだけを作っていました。でもデザインが本職ですから、凝ったモノを作りたくてね。最初に周りから評価していただいたのは、フェザー(羽)でした。皆が作るようなモノではなく、オリジナリティーの溢れる形にしたくて、結局フェザーではなくウィング(翼)をデザインして作品を作ったんです。それを身に付けていたらバイク仲間に「それ、きっと売れると思うよ」と言われはじめまして。それであるミーティングに出店してみたところ、少しだけですが売れました。最初は仕事にするつもりはなかったんですよ。売り始めた当初も、少しずつしか売れませんでしたし。
関岡●ミーティング会場に行ったときは不安はありました。でも自分の作品が目の前で買われていくのは感動的でしたね。デザインの仕事だと、自分がデザインしたモノが、何人もの人の手を経てお客さんの手元に届く。どんな人が自分がデザインしたモノを買ってくださったのか、全く見えないわけです。でも、シルバーアクセサリーは製作から販売まで全て僕一人で完結です。不安よりもお客さんの顔が見える嬉しさの方が大きいですね。
関岡●僕が製作するウィングは片方しかありません。翼一つじゃ飛べませんよね。でもバイクというウィングを合わせて翼を2つにすれば空を飛べる。僕が作る作品が、バイカーが羽ばたくための翼になれば…そんな想いでこの名前にしました。
関岡●妻と2人で作品を作っているので、店舗を持ちながらミーティングにも出店となると作品作りが間に合わないんです。製作を外部の方にお願いすればいいのかもしれません。でも、1つ1つ想いを籠めて手作りで製作したいんですよ。ミーティングに来て、ウチのブースを見つけて喜んでくれる人もいるんです。「前から欲しかったんです」と言ってもらえると、今でも昔と同じように嬉しいモノなんですね。昔と変わらない喜びを感じていたいので、今のままでモノ作りをしていきたいと思っています。
関岡●そうです。ウチのアクセサリーやT シャツを着てくれているお客さんをミーティングで見るだけで嬉しい気持ちになります。ミーティングは「自分の作品を販売する」という場所だけではないんです。これまで僕の作品を買ってくださった方、日本のあちこちに住む仲間など僕が会いたい人に再会できる場でもあるんです。
関岡●本当にそうですね。考えてみるとハーレーに乗っていなければ、シルバーアクセサリーは作らなかったでしょう。ミーティングという世界にも出会えなかったと思います。ですから、本当にハーレーを乗っていたからなんでしょうね。今の僕があるのは。
関岡●妻と2人で、作品も積んで走っています。「車で行けよ」と言われますけれどね(笑)。荷物満載のサイドカーには非力さも感じますけど、ハーレーで会場に向かっていると気持ちいいですよ。
関岡●現行のツインカムエンジンには興味津々です。でも、今のショベルヘッドには思い入れがありますし、シルバーに通じる魅力も感じているので買い替えたいとまでは思いませんね。シルバーって、日常で使用しているとどうしても傷も入りやすい。どんなに細かい目のモノで磨いても、どうしても細かい傷が残ります。しかも磨いても磨いても、完全な輝きは出せません。使わなければ黒ずみますし…。何だかショベルヘッドとシルバーには同じような魅力があると思いませんか。どちらもなかなか言うことを聞いてくれない共通点があります(笑)。だからショベルヘッドに乗っているのかな。
関岡●シルバーを始めてもう5年になります。大袈裟かもしれませんが、以前よりは人間らしく生きていると感じています。朝からジュエリーを作り、ご飯を食べて週末にはミーティング。晴耕雨読のような感じですね。妻も今の生活に、やりがいを感じていてくれているようです。
関岡●作り始めたきっかけは「自分の欲しいものを作る」でした。しかし、欲しいモノのレベルがどんどん上がっていくと、当然ながら製作は難しくなります。それでもシルバーという金属は、考えて、頑張ると自分の思い通りの形に変わっていくんです。どんな世界でも同じなんですけれど「努力すれば形になる」んですね。その一番わかりやすい形がシルバーアクセサリーなのかもしれません。人の生き方にも似ていませんか(笑)。磨けば磨くほどに輝きが増してくるところなんて、人生を感じさせてくれますよね。
関岡さんのご自宅には作り出されたジュエリーが並び、壁には奥様が描かれた絵が掛けられ、物を創り出すクリエイティブ感が溢れている。ご自宅は閑静な住宅街の中にあり、周りのどこの家の駐車場にもファミリータイプの車が収まっていた。その中で関岡さんのお宅だけ駐車場にFLHとサイドカー、いつでも出かけられるようにキャンプ道具が綺麗に積まれている…そんな環境の中でお話を伺った。シルバーという金属が複雑な形になっていく行程を丁寧に説明してくれる。話をきいているとアクセサリーを作りたくなるから不思議だ。気負うわけでも焦るわけでもなく坦々とだが丁寧に作品を作り上げ、奥さんと二人サイドカーに積み込んでミーティングへ向かう。そう話す関岡さんの様子からを見ていると、物を売りに行く商売ではなく、仲間の待つ場所へと向かい、楽しい時間を求めて走るというほうが近いのかもしれないと感じた。仲間たちに新しい作品を発表しに行くアーティスト、関岡さんに対しそんな印象を持った(大森 茂幸)。