日本を含む全世界で展開されたハーレーダビッドソンのカスタムコンテスト『THE BATTLE OF THE KINGS(ザ・バトル・オブ・ザ・キングス)』。熾烈を極めたこのコンテストで、2015年、2016年と2年連続で入賞を果たしたのが、今回登場するイギリス人カスタムビルダーのチャーリー・ストックウェルだ。『YOKOHAMA HOT ROD CUSTOM SHOW 2017』にゲストとして招かれた彼に、日本のカスタムシーンに対する印象や自身が愛するカスタムスタイルへの想いを語ってもらった。
1980年、イギリス・ロンドン生まれ。16歳のときより、ロンドンにある「Warr’s Harley-Davidson」に勤務。日本のカスタムハーレー誌に感銘を受け、同ショップでカスタムビルダーとしてのキャリアをスタート。H-Dカンパニー主催のカスタムコンテスト「THE BATTLE OF THE KINGS」では2015年、2016年と連続で入賞。好みのカフェレーサーにとどまらず、フラットトラッカーやリアルレーサーといったスタイルはもちろん、ビッグツインモデルのカスタムにも意欲的に取り組んでいる。
2015年はフォーティーエイトで、そして2016年にはアイアン883と、異なるモデルながら見事に人々を魅了するカスタムスポーツスターで栄誉を手に入れたチャーリー。「カフェレーサー」をコンセプトにレーシーなスタイルへカスタムしたアイアン883は、チャレンジの際から入賞を確信していたという。
「ちょうどカフェレーサーブームがやってくる予感がしていたんだ。だから迷いはなかったね。自分のなかにイメージは出来上がっていたので、あとは制約との戦いだった」
制約とは、この『THE BATTLE OF THE KINGS』参加におけるルールのこと。「予算は5000ポンド(約75万円)」「ハーレー純正パーツを50%以上使用すること」というものだった。
「工賃や人件費を除いたら、予算は半分ぐらいしか残らない。これが6000ポンドだったらもっとできることがあったんだけど、ルールはルール。純正パーツをうまく取り入れつつ、オリジナルのロケットカウルとメガホンマフラーでカフェスタイルを演出しようと考えたんだ」
目論見は見事に成功し、イメージ通りの一台が仕上がった。ロケットカウルを備えた真っ黒いカフェレーサー……ハーレーダビッドソンの歴史をよく知る者なら誰もが思い浮かべる70年代の名車「XLCR」の名を口にすると、チャーリーはニヤリと笑った。
「そう、裏テーマはまさにXLCRさ。僕にとって思い出深い一台であり、このカスタムコンテストが僕のビルダー人生における節目の年でもあったので、XLCRをインスパイアした一台にしようと思ったんだ」
イギリス・ロンドンのキングスロード沿いにあるハーレーダビッドソンの正規ディーラー「Warr’s Harley-Davidson」にチャーリーが入社したのは、今から20年前の16歳のとき。そこで最初に任されたのが、XLCRの洗車だったそう。キャリア20年目、初心を思い出させるテーマにアイアン883はマッチしていたのだ。
ヨーロッパのスポーツスターカスタムという点で注目される存在となったチャーリー。そんな彼がもっとも大きな影響を受けたのは、他ならぬ日本のカスタムシーンなんだと語る。
「随分昔のことなんだけど、友人からもらった日本のカスタムハーレーの雑誌に強い感銘を受けたんだ。当時、ヨーロッパでは”カスタムバイク”というものがあまり盛んではなかったから、バリエーション豊かで精度の高いカスタムバイクが誌面いっぱいに展開されている日本の雑誌に驚かされた。あれを見て、ディーラーに勤める人間としてカスタムビルダーを目指そうと思うようになったんだ」
そういう意味では、彼が生み出したカフェレーサー・アイアンにも日本のカスタムシーンが少なからず影響しているようだ。
聞けば、かつてヨーロッパにおけるスポーツスターは「ハーレーダビッドソンの世界における入門モデル」という位置付けだったそう。それが、こうした日本から発信されたカスタムスタイルによって、スポーツスターというモデルに変化と新しい付加価値を与えたのは間違いない。
「元々レーサーが好きでね、しかし以前は”ハーレーにレーシングスタイルを取り入れる”という発想自体がなかったんだ。今はもちろん違う。XL1200CX ロードスターのようなモデルも登場し、よりスポーツライドを楽しむためのカスタムイメージが湧いてくるようになった」
今度はどのモデルで、どんなカスタムにチャレンジしてみたい? という質問に、「ロードスターでカフェレーサー」と即答。すでにイメージは固まっているようだ。
「日本のカスタムマシンの完成度は群を抜いている。最新モデルにレトロなエッセンスを違和感なく取り入れるセンスは見事という他ない。輝かしい歴史の1ページを刻んでいる60年代や70年代のハーレーを現代モデルでどう再現するか。日本に見習うべき点は多いよ」
そんなチャーリーが今回、憧れの国・日本にやってきた目的のひとつが、2017年12月3日(日)、パシフィコ横浜で開催された日本最大級のカスタムカー&バイクの祭典『YOKOHAMA HOT ROD CUSTOM SHOW 2017』への出展だ。初めて触れた日本のカスタムショーで、彼はどんな印象を抱いたのだろう。
「正直言って、ヨーロッパとは比べるべくもないほどクールなバイクが多かった。ヨーロッパのカスタムショーだと10台も撮れば飽きてしまうんだけど、ホットロッドショーではケータイのバッテリーが切れるまで撮り続けたほどさ(笑)」
そんなチャーリーのお眼鏡にかなったモデルはあったのだろうか。
「どれも素晴らしすぎて、一台に絞るのは難しいな。あえて選ぶなら、TOMO(松村友章 / SHIUN CRAFT WORKS)が生み出した黄金のショベルかな。その他では、インドネシアやスウェーデンから出展されていたカスタムバイクが印象的だった。僕の作品であるダイナの周りを彼らのマシンが囲んでいて、夢のようだったよ!」
無限の可能性とイマジネーションというかけがえのない思い出とともに、イギリスへと帰るチャーリー。帰国した彼は、一体どんなチャレンジをしていくのだろう。
「カスタムのトップシーンを目の当たりにして、今度は僕自身がマシンを手がけることで表現していかなくちゃね。チョッパーにはじまり、ボバー、カフェレーサー、フラットトラック、スクランブラーと、今やいろんなスタイルが出尽くしてきた感がある。スポーツスターをベースモデルとして取り組んできたわけだけど、今度はストリートボブやソフテイルスリムでチャレンジしてみたいね。また、チョッパー×ボバーといったスタイルの融合も面白そうだ」
再び彼の手から、斬新なカスタムハーレーが飛び出してくるのだろう。それが今から楽しみで仕方がない。
2018年、日本でもフォーティーエイトをベースモデルとする『THE BATTLE OF THE KINGS』が開催されることとなった。その一報に、チャーリーも胸を躍らせている。
「期待しているかって? もちろんさ! 僕が大きな影響を受けた日本のカスタムビルダーたちがフォーティーエイトをどうカスタムするのか、そう思っただけでワクワクしてくるよ。遠くイギリスからその模様に注目しているよ!」
まだ見ぬ新しいスタイルのフォーティーエイトが列島を席巻する日は近い。入賞モデルが勢ぞろいするのが今から待ち遠しい。