ハーレーダビッドソン社、初のOHVエンジンがこの「ナックルヘッド(以下、ナックル)」エンジンです。今でもその造形の美しさに魅せられるファンは多い貴重なエンジンなんです。今回は、このビッグツインの開祖とでもいうべき「ナックル」について、解説してまいりましょう。
ナックルは1936年に登場したエンジンです。ハーレー社は1929年に、現在のVツインエンジンの基礎となった「フラットヘッド・エンジン(※注1)」を主力にモーターサイクルを生産していました。しかし、当時アメリカ国内のライバルメーカー「インディアン」や英国「BSA」などが相次いで、当時の最先端技術であるOHV(オーバー・ヘッド・バルブ/現行のハーレーも同じOHV)方式のエンジン搭載の新型車をリリースしたために、ハーレーは危機を迎えていました。そこでライバル社に対抗する形でリリースしたOHVエンジンが「ナックル」というわけです。ちなみに、ナックルは1947年までの約11年間作られました。
ナックルは当初、排気量988cc、40ps/4,500rpmというスペックで登場しました。これは、現行のツインカム96エンジンと比べると劣りますが、実に60年以上前のエンジンであることを考えると優秀な数字です。また、ナックルの前のエンジンであるサイドバルブと比較しても出力は2倍近くになっているんです。しかも、ナックルが搭載されたEモデルは、トップスピードが150km/h以上と当時としてはかなり高い目標設定でしたし、このEモデルをベースに開発された「レコードブレーカー(記録挑戦モデル)」は約218km/hのコースレコードを達成しているんですよ。当時として、性能的には申し分なかった優秀エンジンなんです。
もちろん、問題もありました。当初のナックルは、オイル漏れが頻繁に起こるし、メカ・ノイズも相当大きいなどトラブルも少なくありませんでした。しかし、これらの問題はまもなく改善され、40年代には一つの熟成を見ています。また、41年には排気量を1200ccとしてさらなる熟成を見ています。ですが! もちろん現代モデルと比べると耐久性は比較になりません。
ロッカーアームのカバーが「握り拳」に見えることから、ナックルと言う愛称で呼ばれるようになったんです。ちなみに、ロッカーアームのカバーはアルミでできています。
ナックルを搭載するモデルは、全部で4機種あります。まず、1936年から登場した988ccを搭載する「E」、「EL」。ちなみに、EとELの違いは、圧縮比(Eが6.5でELが7.0となっています)。一方、1940年から登場した1200ccは、988ccが出力40ps/4,500rpm(最高速度/150km/h)だったのに大して、48ps/5,500rpm(最高速度160km/h)と性能が大幅に向上しています。この1200cc版を搭載するのが「F」、「FL」モデル。こちらもFとFLの違いは圧縮比です(Fが6.6、FLが7.0)。