今回ご紹介するのは埼玉県深谷市「MOTOSPORTS」代表の近藤 弘光さんだ。今回のインタビューはいつもとカラーが少し違う。テーマは「騒音規制と排気ガス規制」についてだ。デリケートな問題なので、インタビューとして記事を掲載するかどうかは非常に迷ったが、今後避けて通れない問題なので、重いテーマではあるものの敢えてインタビューに踏み切った。本来ならばもっと明るいテーマでいくらでもインタビューができたにも関わらず、このテーマでのインタビューにご協力いただいた近藤さんには感謝に絶えない。我々と同じ乗り手の立場でモノを考えるプロの生の意見、賛否両論はあるだろうが是非じっくり考えてみて欲しい。
近藤●今の現行ハーレーは騒音規制や排ガス規制など、さまざまな環境規制を守る必要があります。その排ガス規制が2006年以降にさらに厳しくなるんです。ハーレーにその規制が適用されるのは恐らく2007年からですが、その事実を知り「これは何とかしないといけないな」と思ったのが「ECCTOS」開発のきっかけです。
近藤●そうですね。ライダーの皆さんは「今の日本の排ガス規制は厳しすぎる」と思われているかもしれませんが、実は日本の規制は世界から見ると、現在はそれほど厳しいものではないのです。今、世界で一番厳しい規制はヨーロッパ。すでに実施されている「EURO3」という排気ガス規制です。しかも、今年中にヨーロッパでは「EURO4」というさらに厳しい規制に変わります。あまり知られていませんが、ハーレー本国のアメリカでも今年から新たな基準での排ガス規制が施行されます。いまや毎日、新聞には地球温暖化をはじめ環境関連の記事がみられるように世界的にそういう流れができており、それはもう止めることはできないんです。
近藤●排気ガス規制は車の世界ではもうそれほど珍しい話ではありません。昭和54年規制から触媒を備えている車があったように、以前から常識になっています。いまや車のCMを見ても「いかに環境に優しい車なのか」が、積極的に謳われていますね。街中でエコカーが走っているのを見ても珍しくない、そういう世の中になってきています。我々ハーレー乗りだけが「排ガス規制は嫌だ」とは言えなくなってきているのです。でも、いきなりハーレー乗りの皆さんに規制が始まってから「今日から規制が厳しくなりました。そのマフラーは違法です。」と言っても納得できませんよね。ですから、まだ時間がある内に、バイク業界で仕事をしているショップ側がそれを伝えていかなければいけない、その状況を踏まえてアフターパーツを造らなければいけない、そう思ったわけです。
近藤●騒音規制も厳しくなってきています。実際、取り締まりも始まっていますから。今までのようなマフラーの楽しみ方はそう遠くない先にはできなくなってしまうでしょう。マフラーの音、というのは確かにハーレーの魅力の一つです。私はショベルが新車で売られている頃からハーレーに関わってきましたので、その魅力はもちろん理解しています。非常に寂しいことですが、マフラーの音量については多少我慢しなければいけなくなってきています。
近藤●単純に一般の方からの苦情が多いからです。警察や全国の道路を管轄している国土交通省に毎日、騒音問題についての苦情の電話が何本も掛かってきているそうです。そのため、国土交通省は騒音問題についても真剣に考え始めています。
お上から降りてきた規制ではなく、『お上を国民が突き上げて騒音規制』は始まっているんです。ですから、今はもう「規制はあるけれど、取り締まりがないからいいや」という問題ではなくなってきています。
近藤●我々ハーレー乗りと一般の方の観点は微妙に違うんですね。そこをまず理解しなければいけません。たとえば、最近街でよく見かけるビッグスクーター、あのマフラーの音をうるさいと思ったことはありますか?
近藤●それを我慢できないのが普通の人の感覚なんですね。しかも、実はビッグスクーター用のリプレイスマフラーは国の定める騒音規制値をクリアしているものがほとんどです。それでも、音は大きく感じられるんです。
近藤●他の音が聞こえない、夜中や朝方はどうしても音が大きく聞こえますし、日中でもビルが多く立ち並ぶ街中ではマフラーの音は建物に反響して実際より大きく聞こえてしまいます。実際、音が大きいのは事実でもあるんです。ビッグスクーターのように小排気量のバイクだと信号待ちからのスタート時はパワーがないため、ほぼアクセルを全開にして走り出しますよね。回転数を上げて走ってしまうので、音が大きくなってしまうんです。
近藤●我々がどう思おうと、一般の人は事実「バイクはうるさい」と感じています。そのためリプレイスマフラーにも新車の騒音基準を当てはめようか、という動きさえあります。実はですね、新車の騒音規制基準と街を走っているバイクの騒音規制基準は違うんですよ。今はその違いの部分を楽しめますが、苦情が多い現状を考えると今後はさらに厳しくなるでしょう。
近藤●アメリカは音に対して自由だ、というのも大げさなイメージなんですね。確かに日本のメディアが報じるハーレーはアウトロー的なハーレーが中心です。しかし実際はそういう乗り手は一握りなんです。今はアメリカでも州によっては直管マフラーで走っていると捕まってしまいます。ハーレーの本国ですら今はそういう状況です。実際はアメリカも日本と同様の状況なわけです。正しい情報が日本のハーレー乗りには伝わっていないんですよ。
近藤●国土が広いアメリカでは少しくらいバイクが音を立てて走っていてもそれほど目立ちませんが、それでもそういった規制が適用されているんです。ですから、国土の狭い日本なら尚更厳しい目にさらされてしまうでしょう。アメリカでは街でバイクを見かけることはそれほどありませんが、日本で街を走っていてバイクを見かけないことはありませんよね。そういう意味でも日本でバイクに対する目が厳しくなってしまうのは仕方がないことなのかもしれません。
近藤●音量や触媒など規制を考慮に入れた上でマフラーを造るのは非常に難しいんです。「静か」で「いい音」というのは本来は相反していることですから。そういう難しい部分にチャレンジするにはコストや技術、膨大な手間も必要になってきます。ですから、私も自分たちだけではその開発は難しいので、バーニングブラッドさんと共同で開発を行ったんですよ。
近藤●現在のような形でバイクを楽しめるのは、せいぜいあと10年くらいじゃないかと考えています。ハイブリッド自動車などが実用化されている現在、生で排気ガスを出す乗り物は許されなくなってくるでしょう。そう遠くない将来、排気ガスを出さない、モーターで走るバイクが当たり前になってくるのかもしれません。今、バイクに乗っている方はガソリンで動くバイクを楽しめる最後の世代なのかもしれませんよ。
近藤●モーターでの駆動が当たり前になると、今のようなバイクショップの形態ではいられなくなってしまうでしょう。ガソリンを内部で爆発させるエンジンは機構が複雑でメンテナンスにも手間がかかりますが、モーター駆動でバイクが動くようになればバイクの機構は単純になり、今ほどメンテナンスの必要もなくなるでしょう。そうなった際に我々バイクショップはどうなってしまうのか、まったく想像もつきません。
近藤●私にもその将来はわかりません。ただ、バイク業界が大きく変わりつつあるのは確かです。バイクを取り巻く状況が変わりはじめた今、本当はメーカーの垣根を越えて、バイクショップそれぞれが連携して将来を考えなければいけないでしょう。私は1979年からハーレーに携わってきました。これだけ自分を楽しませてくれたバイクという乗り物が大きく変わりつつある。大いに楽しませてくれたバイクがこの先どうなるのかはわかりませんが、いい方向に進んでいくように是非恩返しをしたい、そう思っているんです。本当は業界を巻き込んで、いろいろな働きかけをしたいと思っています。しかし、まずは自分のできるところから動き始めよう、そこから活動を広げていこう、そう考えています。私が「ECCTOS」に携わっているのはそのための活動の一つなんです。
今回のインタビューは非常に興味深いものだった。世界的に環境問題は確かに盛り上がっている、それは知っていた。しかし、それを自分が普段楽しんでいるハーレーに結びつけて考えたことはなかった。世の中の流れは確かに変わりつつある、二輪の世界だけが知らないふりをできるわけはないだろう。少し重いインタビューになってしまったが、そろそろ我々ハーレー乗りも音と排気ガスについては真剣に考えなければならない。いい音を楽しみたい、それも事実。好き勝手言って自分だけが楽しんでいい問題ではない、それも事実。この先は皆さんがそれぞれで考えてみて欲しい。(ターミー)