ハーレーのプロが指南する是非ものチェックポイント
テーパーローラーの遊びは
「シム」で決める
「回って当然」と思われがちなホイールベアリングにも、メンテナンスが必要なことはご存じの通り。ほとんどの国産車がボールベアリングを採用する中、この年式のスポーツスターはテーパーローラーベアリングを使っている。このタイプのベアリングは、定期的な遊びのチェックとグリスアップが必要だ。
シムの枚数や動きを見ながら
ベアリングの遊びを調整していく
1997年式スポーツスターの取扱説明書を見ると、ホイールベアリングのメンテナンスに関して「年1回、あるいは1万6000km走行毎に、あるいは長期保管前にグリスを交換してください」との記載がある。国産車でも1年ごとの点検項目に指定されているものの、多くの機種はシールタイプのボールベアリングを装備しているため、グリス交換というより、手で回して違和感があれば交換という対応になっているようだ。
スポーツスターも最近はボールベアリングを採用しているが、ここで使用している1997年モデルはテーパーローラーベアリングを使用しているため、定期的なメンテナンスが必要となる。
グリスアップと並び、テーパーローラータイプで重要なメンテナンスが、サービスマニュアルでは「エンドプレイ」と表記される、ベアリングの遊びの調整だ。インナーレースとアウターレースが分割するテーパーローラーベアリングは、両者が接する圧力が高ければ動きが渋く、低ければガタが出るという特性があり、適正な圧力を与えることが重要だ。
そこで、車体に取り付けたホイールの遊びをチェックする。タイヤを浮かせて直径方向の2カ所を支えて、静かに揺すってみる。この時「カクッ」という動きが感じられたら、遊びが大きい証拠。左右のベアリング内側にはスペーサー部にごく薄いシムが複数枚あって、これを減らすと隙間が詰まり、遊びが小さくなる。
逆に、遊びが小さい時はタイヤが軽く回転しないので、アウターレースの打痕や水分混入による腐食をチェックし、ベアリングが使用可能ならシムを追加して適正な遊びを確保する。
作ったばかりのフロントスタンドでタイヤを浮かせて、ベアリングの遊びをチェック。サービスマニュアルでは、マグネットベースでディスクローターにダイヤルゲージをセットし、接触子をアクスルシャフト先端に当てて、ホイールをアクスルシャフト方向に動かして遊びを確認する方法が記載されている。この手法では、遊びが0.05~0.15mmで適正。
ファクトリーギアのDEENのインチ工具が大活躍。初体験のインチボルトやナットでも困らないのはこの工具のおかげだ。
前輪を外したら、オイルシールのコンディションを確認。リップが切れていたり、油分がなくカラカラに乾いていたり、内側に見えるベアリングにサビが見えるようだと、水分混入が疑わしい。
幸いこの車両はリップ部分の油分もたっぷりあって、サビの心配はなさそう。国産車用よりずっときつく圧入されたオイルシールは、しっかりしたプーラーを使わないと抜けない。再使用不可。
ボールベアリング仕様なら、オイルシールを外すとベアリングのシールが現れるが、テーパーローラーはいきなりインナーレースが抜ける。同時にスペーサーも引っ張り出せる。
ディスクローターと反対側の、車体右側のオイルシールを外すと、ベアリングの下側から薄い鉄板が数枚出てきた。これらがベアリングの遊びを決めるシムと、スペーサーワッシャーだ。
左側のベアリングの隣から、スペーサーワッシャー、シムとなる。遊びを小さくする時は、最も薄いシムを1枚外して復元して確認。まだ遊びが大きければもう1枚外して、という手順で行う。
このシムは厚さに応じて5段階のグレードに分類される。この車両には最も薄い0.038~0.064mmが2枚、0.76~0.84mmが1枚入っていた。ホイールを揺すると「カクッ」感があるので1枚抜く。
ベアリングのダメージの有無を確認し、すべてのパーツをパーツクリーナーで丁寧に洗浄したら復元する。シムが収まる側には、ハブ内側に3カ所の出っ張りがある。ここにシムを乗せるのだ。
分解前から1枚減らしたシムを、ハブの中にセットする。ベアリングはしっかりグリスアップするが、シムの間にグリスがあるとセット時の厚みが変わるので、脱脂した状態で重ねておく。
ハブ内側の3カ所の出っ張りから、ずっこけないように慎重にシムを乗せる。先の2工程の写真で、スペーサーの筒が見えているが、これは反対側のベアリングを入れる直前に挿入できる。
ボールベアリングなら、ここでベアリングを圧入するが、一連の作業でテーパーローラーのアウターレースは抜いていないから、レース表面にゴミや異物がないことを確認して、グリスアップする。
ハーレー純正のベアリンググリスは長期に渡って安定した性能を発揮するが、今回はニューテック製のマルチパーパスグリス、NC-100を使用する。過剰に塗らなくても高い潤滑性能を持続する。
オイルシールプーラーで外したことでハウジングが歪んだオイルシールは新品に交換。頻繁にグリスアップしたいが、そのたびに1個950円のシールがダメになるのはちょっと懐に痛い。
オイルシールをハブに挿入する際は、シールの外周に薄くオイルかグリスを塗布しておく。このシールがベアリングを押さえる役目もするので、ハブ表面から0.51mm下まで押し込む。
ホイールをひっくり返して、ディスクローター側のベアリングをセットする。この時、筒状のスペーサーを挿入する。傾いて入れるとシムを損傷するので、まっすぐ入れること。
11と同様にインナーレースとローラーにグリスを塗布する。手のひらに乗せたグリスに、レースをこすりつける。これをアウターレース内に収めたら、オイルシールのリップにもグリスを塗る。
反対側と同じように、オイルシールを押し込んででインナーレースを押さえる。とはいえ、この状態ではまだガタガタで、遊びは分からない。確認はアクスルシャフトを通してから行う。
フロントフォークにホイールをセットする際は、ハブの左右にそれぞれスペーサーが入る。また、アクスルシャフトはディスクローターと反対側から挿入し、突き当たるまで押し込む。
アクスルシャフトに回り止めを施し、アクスルナットを68~75Nmで締め付ける。このトルクで締めることで、テーパーローラーに適正な与圧が加わるから、必ずトルクレンチを使用する。
右側アウターチューブ下端のピンチスクリューを締め付けたら、再度ホイールを揺すって遊びを確認。シムを1枚抜いただけで、タイヤ部分でのガタは明らかに減少した。
続いてホイールを思い切り回してみる。遊びが少なすぎると、ブレーキが掛かったかのように回転速度が落ちる。気持ちよく回り続けたので、シム1枚抜きで正解だったようだ。