取材協力/株式会社スターズトレーディング 写真・文/モリヤン 構成/VIRGIN HARLEY.com 編集部
アメリカで開発されたリクルスオートクラッチシステムは、通常のクラッチを分解し、シェルはそのままで、フリクションディスクやスチールプレートなどの構成パーツを取り替えるだけで、セミオートマ化が実現できるという優れたシステムである。発売開始から大幅にシェアを伸ばしたのは、耐久レースに出場するオフロードバイク用で、クラッチ操作しないままスタートできるその機構は、悪条件化で優位に立てることが評判となり、今や有力チームの必須アイテムとなっている。そこで、重量のあるハーレー用も混雑する都会での使い勝手が同じような条件となることから、序所にそのラインナップを増やし、現在ユーザーは増えつつあるという状況なのだ。
ノーマルクラッチのインナーキットをそっくり交換し、セミオート機構とするのがリクルスのシステムである。つまり、クラッチそのものの構造が同じ車種であれば適合するということなのだが、これまでの対応車種にトライクとCVO用が存在しなかった。現在、ビッグツイン系エンジンのラインナップは、ツインカム96(1580cc)と103(1689cc)それにCVOの110(1801cc)が存在する。
それぞれのエンジントルクに見合ったクラッチの構成パーツは微妙に違い、スプリングもプレーンなダイアフラム型とコイル型が存在するのだ。特に重量のあるトライクと絶対的なパワーが大きいCVOは、強力なコイルスプリングを3本使用するクラッチを採用しているために、通常のラインナップから今回少し遅れての発売となった。
基本的な構造は、他のリクルス製品と同じで、パーツの入れ替え作業の手間そのものは同等である。少し違いがあるのは、油圧クラッチに対応するアジャスター部分の調整方法ぐらいだろうか。もちろん、取り付け作業はユーザーのサンデーメンテナンスレベルではなく、専門店での仕事となるが、ごく短時間でのセッティングが可能であることは、従来の製品と変わりがない。
ツーリングが快適なハーレーダビッドソンが最も苦手とする状況といえば、都会での渋滞やノロノロ運転である。重い車体を頻繁に発信停止させることは、微妙なクラッチ操作を要求し、トルクフルなエンジン特性であるがゆえに、ライダーの疲労を大きくする要因となってしまうのだ。最新のハーレーは、以前に比べてクラッチそのものの重さや操作フィーリングが格段に向上しているとはいえ、頻繁に渋滞する都会での道路事情においては、さらに便利なアイテムが求められるのは当然のことだろう。
リクルスのシステムは、通常走行ではノーマルと変わらないクラッチ操作ができ、車体が停止している状態、つまりエンジンがアイドリングの時にはクラッチが切れているという状態を作り出すということが最大の特徴である。ギヤがどの位置にいても、アイドリングではバイクが走り出すことはないので、発進時にはギヤをローに入れたまま待機することが可能で、そのままアクセルを徐々に開けていけば、スムーズに発進できるという、画期的なシステムなのだ。その後は通常のクラッチ操作でシフトアップもシフトダウンもできるし、クルマのオートマチックのような、ドライブレンジでのエンジンブレーキがかからないなどという症状もない。
今回は、取り付け作業を行った「ハーレーダビッドソン東久留米」のメカニックである吉原久貴さんに、実際に様々な道路状況でテスト走行してもらい、その印象を語っていただいた。
──扱う上で気をつけなければならないポイントは何かあるのでしょうか?
吉原● まず、オートクラッチの機構が正常に働いているか、調べる方法があります。それは、エンジンを始動してしばらく暖気運転を行った後、ギヤはニュートラルのままクラッチレバーに指をかけ、レバーの遊び分をキャンセルする僅かな分だけ軽く引き込み、その位置をキープします。そしてエンジン回転を徐々に上げ、その引き込み量がほんの僅かに増えれば(8分の1インチ程度)OKです。それから、エンジンの暖気運転は長めに必要ですね。プライマリーオイルが温まるまでは、通常のクラッチと同じ操作で走行しながら暖気すべきでしょう。
ハーレーダビッドソン東久留米のメカニックである吉原久貴さん。10年以上のキャリアがあり、マスターオブテクノロジーの有資格者だ。愛車はスポーツスター2台。乗るのも大好きなハーレーメカである。
──暖気が終わった後の印象はどうですか?
吉原● 慣れないうちは半信半疑で、機能に任せられない気持ちが強かったのですが、すぐに慣れましたね。実際、アイドリング時は、ギヤがローに入っていてもまったく車体は動き出しません。つまり、信号のたびにギヤをニュートラルに入れるという作業から完全に開放されます。そこがまずすばらしいですね。
──発進時のフィーリングはどんな感じですか?
吉原● 半クラッチになっているイメージは全然なくて、極めてスムーズに発進できます。アクセルの開け方に凄くリニアな印象ですね。初心者ライダーには真似できないほど、スムーズですよ。坂道の発進などでは、特にメリットが大きいでしょうね。これだけスムーズだと、クラッチ板の消耗も最小限にできるから、クラッチ本体やミッションの耐久性も向上すると思います。
──シフトアップやダウンに違和感はないのでしょうか。
吉原● それはまったくノーマルクラッチと同じフィーリングですね。オートマだからエンジンブレーキが効かない、などということはまったくありません。クルマのトルコンとは構造が違いますから。
──通常走行ではノーマルハーレーと同じフィーリングということですね。
吉原● まったく、そのとおりです。
──注意すべきことは、ないのでしょうか?
吉原● ギヤをローに入れたままでもアイドリングなら車体は停止していますが、アクセルを開ければ走り出します。ということは、ついうっかり停止中にカラ吹かしのつもりでアクセルを煽ると、その途端にバイクがダッシュしてしまいますから、その点だけは必ず注意してください。交差点で待っている時などに、アクセルを煽るクセがあるライダーは、要注意ですね。その他は、何も問題ありません。渋滞時や坂道での発進。細かい裏路地での走行など、本当に楽なライディングになりますよ。特にトライクは渋滞時のすり抜けができないですから、これは必須アイテムと言えるでしょうね。